劇場公開日 1987年10月31日

「あの時代のあの空気、あの風景」BU・SU バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 あの時代のあの空気、あの風景

2025年8月10日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、DVD/BD

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市川準監督のデビュー作。悪い噂に追われて田舎から逃げるように上京し、親戚の芸者屋に住む性格ブスな女子高生が主人公。心を閉じ、高校にも馴染めず、芸者修行にも身が入らない彼女が、様々な人との出会いの中で新しい一歩を踏み出していく姿を描いている。1987年のキネマ旬報ベスト・テンで日本映画第8位、さらに読者選出では第2位に選ばれた。読者選出のほうが順位が高く、この暗い翳りを帯びた青春映画が映画ファンの強い支持を得ていたことがよくわかる。公開当時のポスターを見ると、映画会社が必死に明るい映画に見せかけようとしてるのが今となってはちょっと笑えるが、公開前は暗い映画じゃウケないと思われてたんだろうなあ。VHS以降では映画の内容を的確に表したデザインに改められた。

僕が最初にレンタルビデオ店で見かけたのは高校生か大学生の頃。興味を持った日本映画の1つだったんだが、なぜかなんとなく観ることがなく過ぎてしまい、実際に観たのはなんと市川監督が他界した後の日本映画専門チャンネルでの追悼特集であった。その時ももちろん面白いことは面白かったものの、あくまで数ある面白い市川監督映画の中の1本という感じだったんだが、その後あるきっかけ(どんなきっかけかは忘れた。あるいはきっかけなんて無かったかもしれない)でふとまた観たくなって観直したら、映画の中の1980年代後半の空気と風景が僕の心を強く惹き付け、捉えて離さなくなってしまった。結局DVDを購入し、その後も現在に至るまで10回から数十回も繰り返し観ることになる。とにかくこの映画の中の人間とか風景とか事物とか世界とか存在とか全てがたまらなく愛おしい。

こういうことはごく稀にではあるが起こることがある。この『BU・SU』には間違いなく80年代後半のあの頃の空気と風景と世界が切り取られていて、多分それが僕の心を激しくとらえ、揺さぶるんだろう。『つぐみ』もそういう映画だったが、そこに関しては東京という“都市”を舞台とした『BU・SU』のほうが個人的にはより強く感じる(僕は東京に住んでいたわけではないが、それでもなぜか)。市川準という人はそういう能力がとても高い人なんだと思う。

主演の麦子役の富田靖子はもちろん素晴らしく、彼女のベストと言ってもいいんではないだろうか。またその他の俳優陣もそれぞれに印象に残る。大楠道代、伊藤かずえ、高嶋政宏、市川の盟友とも言うべきイッセー尾形……。孤独に文庫本ばかり読み、やがて姿を消す同級生役の白島靖代も個人的に印象的だった。キャストに記載されている以外のキャストはwikipediaによると辰巳役がはやしこば、担任の中川役が中村育代、同級生の清水岩男役が星野雄史、桜子役が広岡由里子、キャップを被ったボーダーシャツの男子生徒役が山崎直樹、麦子をラブホに連れ込もうとするナンパ男役が峯のぼる、ビアガーデンで麦子たちに八百屋お七を勧める女の役は不明、東京で再会する故郷の友人ナナ(これ、すごくいいエピソードですよね)役が島崎夏美となっている。どこまでが正しいかは不明だが、広岡由里子と峯のぼるは間違いない。ビアガーデンで会う女役の女優さん、誰なんだろうなあ。この映画にあまりにのめり込んじゃってるんで気になる。

バラージ