劇場公開日 1956年1月21日

「音楽の力と白黒作品ながら色彩の力を極限まで引き出した圧倒的な名作です」ビルマの竪琴(1956) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0音楽の力と白黒作品ながら色彩の力を極限まで引き出した圧倒的な名作です

2020年8月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

純粋な本当の意味での正しい反戦映画です
変に左翼思想のイデオロギーに毒されて偏向していない本物であると言うことです

市川崑監督の演出力、構成力
それが音楽の持つ力を圧倒的なまでに引き出しています

ビルマの竪琴の音色は冒頭すぐ披露されます
思った以上の美しい音色と和音で誰もが驚くはずの音色です
そして部隊の合唱シーンに入って行きます
この冒頭のシーンこそ本作品の核心を象徴しているのです

続く村のシーンでは音楽の力が戦いを阻止するのです

音楽の力をこれほど引き出している映画は、そうないと思います

そして色彩
本作は白黒作品です
しかし色彩はあるのです

ビルマの
土はあかい

岩も
またあかい

冒頭とラストシーンで大写しされるテロップです

なぜあかいのでしょうか?

それは、もちろん元から酸化鉄を多く含んだ土の赤さなのでしょう

しかし、そのビルマの大地には戦争により、銃弾や砲弾、爆弾の鋼鉄の雨が降ったのです
その鉄の赤い錆びが大地に染み込んだのです
赤錆が雨で流れて大地に染み込んで行くさまはまるで血が流れたかのようにみえるのではと想像されます

そしてなにより、戦争では日英両軍の兵士達の血が流れ、赤錆の水よりもなお赤いその色をビルマの大地に染み込ませたのです

だからあかいのです

岩もまたあかい

戦場で死んでも、そのまま放置されたままの多くの日本兵の骸
それは鳥についばままれ、ビルマの灼熱の太陽が肉と血を干からびさせて、真っ赤に染まった軍服はボロ布になり果て、血で赤く染まった骨にまとわりついて、まるで赤い岩のようになっているのです
その岩が無数にビルマの赤い大地に転がっているのです

誰がその魂を鎮めてやれるのでしょうか?

生き残って日本に還る部隊の面々の心の中も、赤い大地と赤い岩が無数に転がっているのです

そしてまた、ビルマの土と岩のあかさだけでなく
ビルマの仏教僧侶のオレンジ色の僧服
仏塔の輝く金色、ビルマ寺院の鮮やかな彩色
ジャングルの濃い緑
インコの美しい色彩の羽
大河の川の泥水の色
そして、ルビーの鮮烈な赤さ

これらの豊かな色彩が、白黒作品なのに、確かに見えるのです
鮮やかな色彩でワイドスクリーンで、頭の中で見えるのです

カラーで撮る構想であったそうですが、当時の器材ではビルマロケは困難とされ白黒作品となったとのこと

本作はビルマロケの許可が遅れ、日本で撮った分だけで第一部、遅れて許可がでてビルマでロケ撮影した分で第二部として分けて公開されたそうです
監督は、第二部を止めて本当はロケ撮影分を第一部に加えて再編集したこの総集編で公開し直したいと願ったのにそのような結果になったそうです
これがもとで市川崑監督は日活を退社する事に至ったとのこと

1985年に市川崑監督が本作をセルフリメイクしたのは、そうした因縁があるのだと思います
カラーで撮り直ししたい
もっと完全なビルマの竪琴を撮りたい
その気持ちが如何に強かったか伺えます

リメイク作品は是非ともオリジナルのこの白黒作品を観てから、リメイク版でそのカラーを確かめてみたいものです

三國連太郎の隊長が見事な名演です
悪役が多いこの人が、演じることによってこの隊長の人間性の深みと厚み、ヒューマニズムが引き出されていると思います
兵隊の西村晃もしかりです
老け役が得意な北林谷栄の演じる物売りのビルマの老婆も見事でした
この時彼女はまだ45歳!
29年後の1985年版でも同じ役を務めています
あの喋り方での不思議な大阪弁のもたらす雰囲気
忘れられないものです

監督の配役の眼力が如何に優れていたということです

音楽の力と白黒作品ながら色彩の力を極限まで引き出した圧倒的な名作です

数々の国際的映画賞を受賞するのは当然です
しかし本作はキネマ旬報のオールタイムベスト200にはランクインされていません
本当の意味の反戦映画であることが影響しているのかも知れません
情けないことです

あき240