「真夏の白昼夢のようなジュブナイルホラーの怪作」ヒルコ 妖怪ハンター モアイさんの映画レビュー(感想・評価)
真夏の白昼夢のようなジュブナイルホラーの怪作
昭和40~50年代のオカルト少年にソッと寄り添った漫画家:諸星大二郎の妖怪ハンターシリーズが原作です。
妖怪ハンターという字面からTVアニメ版の「ゲゲゲの鬼太郎」や「地獄先生 ぬ~べ~」の様な特殊能力を持った主人公が人に危害を加える怪異を解決するようなものを想像してしまいそうですが、そうではありません。
このシリーズの主人公:稗田礼二郎(ひえだれいじろう)は学会から異端者扱いされる考古学者であり、神話や伝承に由来する異様な事例や奇怪な題材にばかり興味を示しては、フィールドワークで訪れた先々で怪異に巻き込まれます。
ところが神話や伝承に関する知識はあっても霊能力や超能力の類は持っておりませんので、基本的に目の前で起こる怪異を傍観するのみです。
なので『ハンター』といっても(狩り)というより奇怪な事例を(採取)、(コレクション)していくというニュアンスに近いです。
私は諸星大二郎作品が好きなのですが力不足ゆえにその作品の魅力を上手く表現できません。
ただ諸星大二郎ほど奇怪な物語を通して神話の時代へと続く人類の悠久の歴史に思いを馳せさせるスケールの作品を描ける人を他に知りません。
手塚治虫も「火の鳥」のように壮大なスケールの名作を残しましたが、それとはまた違った手触りをしているのが特徴です。(その違いを上手く表現できないのがもどかしいのです。)
すっかり映画の話を他所にしてしまいましたが、今作はそんな諸星大二郎の妖怪ハンターから「黒い探究者」を原作としています。ただ本作の持つ雰囲気は原作の持つ雰囲気とは似ても似つきません。
原作漫画がどちらかというと思春期が間近に迫った少年が独りで「自分は他の連中とは違うんだ」と読み耽りそうなのに対し、映画は社交的な子が友達数人と連れだって観に行き、頭からっぽにしてワーキャーはしゃぎながら鑑賞するような仕上がりです。(実際そんな客がこの映画を観に来たのかは知りませんが)
とにかく初っ端の「何?あのオッサン」呼ばわりされる主人公(沢田研二)の姿から原作の再現は期待するな!と宣告している映画ですので、こちらも割り切って鑑賞したわけですが、それにしても沢田研二をはじめとした出演者たちが渾身の顔芸を披露しながら、終始ワーワーギャーギャーと騒ぐ様に、個人的には少々胸焼けがしました。
そんな雰囲気のなかでも、自分の運命を悟り一人自決する室田日出男は格好いい気がするのですが、持っている鎌で校舎に傷を付けた事に何の意味があるのかは最後まで分かりません!
またヒロインを演じた女の子は年頃なのに、その青春の全てを投げ捨てているかのような渾身の演技を見せてくれます!が、その迫力には感動を通り越して、少しヒきます。
「仮面ライダーBLACK RX」などの東映特撮ドラマシリーズでよく顔を見る人ですので、こういう役はお手の物なのかもしれませんが、こんな映画のこんな役でここまでの力演を披露して、プライベートは大丈夫なのかしら?と心配してしまう程です。(本人は当の昔にいい大人になっている年代ですし、全くもって大きなお世話なのですが!)
ただ特撮ドラマもそうなのですが、こういった作品が今もなおファンたちの間で根強く語り継がれるのは、こういう出演者の捨て身の力演のおかげでも大いにありますので、やはりその作品への貢献度や役者根性には感服するばかりです。
そして原作がもともと扱っているテーマのスケール感の割に地味でアッサリしているため、そのまま映画にしても約90分の尺でさえ持て余す事になるのは明白です。
そこで何故「遊星からの物体X」へのオマージュ要素が加味されるのか?は疑問ですが、ただその結果産まれた今作のヒルコの不気味さはまさしく味があります…。
シーンによっては明らかにぬいぐるみをピアノ線で引っ張っているだけだったり、手を突っ込んで操るマペットなのですが(それもまた良し!)
妙にぎこちない動きで、そのくせ俊敏に迫ってくる様子は素晴らしいです。
原作のヒルコはハンガーのお化けみたいなデザインで、映画で再現するのは地味なうえ難しそうでしたので、そういう意味でも上手いアレンジだったかなと思います。
また映画が公開された後に描かれた原作:妖怪ハンターの中で、主人公の稗田が女学生に「沢田研二にちょっと似てない?」と噂話される一コマがあることから、原作者の諸星大二郎もこの映画を結構気に入っているでは?と思います。
映画の最後のアレも原作:妖怪ハンターの「海竜祭の夜」をはじめ、幾つかこういったデザインのモノが諸星大二郎作品には出てくるので、そこからイメージ引っ張ってきたのかな~とも思いましたが……いや、アビスだこれ!
と、原作からは遠く離れてはいるがギリギリ切れていない絶妙なラインで別の作品と混ざり合い産まれたトンでもないキメラ映画ですが、こういう映画も邦画の歴史の中には確かに存在しているんだ!という事実を受け止めるためにも、又ひと夏の思い出として見ておくのもアリな1本です。
おはようございます。
昨晩は、また読んでいただき共感たくさん
ありがとうございます。
塚本晋也監督作品で、沢田研二や室田日出男が出演してるのも
妖怪作品。
諸星大二郎さんの名前を知りませんでした。
今Wikipediaで作画を見ています。
そうなんですか?
「妖怪ハンター」
色々な方面に影響を与えた方なんですね。