「神話の世界はこうして現代文明の社会に飲み込まれて消えて行くのです」火まつり あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
神話の世界はこうして現代文明の社会に飲み込まれて消えて行くのです
なんだか皆目分からない
でも、確かに今、ものすごい傑作を観たという感動があるのです
それも日本映画のオールタイムベストのリストに入っているのは当然だと納得できるほどのものです
舞台は三重県の熊野地方の二木島という漁港のある町
熊野地方は日本一雨量が多い地域なので林業が大変盛んな地域です
熊野川の上流で伐採した大木を、いかだにして下流に運ぶことで有名です
劇中でも触れられる神武東征神話の地でもあります
日向から来た神武天皇はこの熊野に上陸して大和に入りそこで即位されたという神話です
熊野大社、那智の滝もこの地域にあります
そしてこの地域は、東京からの所要時間が今でも日本一掛かるところだそうです
北海道や沖縄の方が飛行機でここより近いのです
つまりそれだけ現代文明の社会から日本で一番遠い土地だと言うことなのです
時代はどうやら1979年頃のようです
紀勢本線が全線開通したのは1959年7月のこと
全線開通の祝賀式典は主人公が中学生の頃の20年前の記憶のシーンだったと思われます
主人公は漁師ではなく、林業で働く30代半ばの男です
物語は初夏から始まり、梅雨、夏、クリスマス、そして桜のシーズンで終わります
物語はあるようなないようなもの
田舎の漁村と林業の仕事の日常です
しかしラストでとんでもない大事件が突然起こり、そして終わります
本作は特にネタバレすべき作品ではないと思います
その終盤の大事件の衝撃をいきなりくらうべきだと思います
私たち観客は、2時間かけて東京から一番遠い田舎の退屈な日常を主人公と体験していきます
そうすることで、私たちは主人公がなぜそのような大事件を起こしたのか意味不明であっても、何故だかそれが不思議でもない気になってしまうのです
神話の世界と現代文明社会の相克
そんな風に書くと陳腐ですが、何かそのようなものがテーマだと思えます
だから主人公は盛んに女性神である自然との性的な行為を行うのです
終盤の「火まつり」は、劇中では時系列から冬のことのようでしたが、これは8月にこの地方にある紀和の火まつりをモチーフにしたもののようです
タイトルの「火まつり」とは、このことのようで、実はラストの大事件のことを指していると思います
とすると、火まつりのシーンも、実は冬ではなく夏の記憶が大事件の前に時系列を変えて主人公の脳裏で再生されたことを表現していたのかも知れません
その大事件は1980年に起きた実話をモチーフにしているそうです
ラストシーン
熊野灘に昇る朝日を紀州犬4匹と見つめる男は何者?
神武天皇の東征を表現したシーンなのでしょう
日の本と向きあう男性神
白い4匹の犬は日本の四州の島の意味なのだと思います
神話の世界はこうして現代文明の社会に飲み込まれて消えて行く
それがこのラストシーンの意味であり、本作のテーマだったのだと思います