「ひとつひとつのエピソードが相乗効果を発揮せず」緋牡丹博徒 一宿一飯 jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとつひとつのエピソードが相乗効果を発揮せず
今回の舞台は群馬県富岡です。お竜がわらじを脱ぐのは庶民の味方の正義のヤクザ、戸ヶ崎組です。親分戸ヶ崎栄助(水島道太郎)、長女まち(城野ゆき)、幼い長男太市(伊村賢一郎 )の3人家族に跡目候補の若者菊地勇吉(村井国夫)が主要メンバーです。勇吉とまちは相思相愛のようです。母のない太市はすぐにお竜になつきます。
今回の敵役は本来戸ヶ崎栄助の舎弟分である笠松一家。笠松組は富岡製糸工場を牛耳る悪のヤクザで、悪徳高利貸しとグルになり村人たちを苦しめています。さらに戸ヶ崎組の家業とシマを横取りするために策をめぐらします。
まんまと笠松の罠にハマり、戸ヶ崎栄助と子分たちはみなやられてしまいます。長女のまちも騙されてレイプ。跡目の勇吉も惨殺。戸ヶ崎組は壊滅状態に。
暴行されたまちは「勇吉にあわす顔がない」と悲嘆にくれます。お竜はそんなまちを優しく諭します。「どんなに肌が汚れようとも、心がきれいなら大丈夫。人を好きになるのは心だけん。ほら私をみてご覧。墨ば入れとるとよ。一生消えんとよ」でもよく考えるとお竜が墨を入れたのは自分の意志なので、なんの説得力もありません。
笠松は自分のシマの拡張報告と披露目を兼ねて、関八州の親分衆を上野精養軒へご招待。お竜はその場へ単身乗り込み演説をブチます。「私らみたいなヤクザもんが、仁義ば忘れたらただの人間のクズですばい!」。でも笠松の買収攻勢が功を奏し、結局戸ヶ崎のシマは笠松の手に。金や政治力に勝る笠松にはさすがのお竜もかないません。やっぱりいつものように殴り込み&皆殺しにするしかありませんでした。
女いかさま師と男性器を潰された夫の悲しい夫婦の挿話も、とってつけたよう。お竜の子分になろうとつきまとう山城新伍と玉川良一のコンビも、とってつけたよう。お竜に助太刀するいい男役、七人斬りの風来坊、風間周太郎(鶴田浩二 )の助太刀の理由も、とってつけたよう。すべてが終わり、ひとり残されたお竜が祭りの櫓に駆け登り、涙を流しながら桶太鼓を叩く姿も、とってつけたよう。ひとつひとつのエピソードが相乗効果を発揮しません。逆にノイズになって本筋のやむにやまれぬ感と皆殺しのカタルシスが薄まってしまいました。