劇場公開日 1966年4月16日

ひき逃げのレビュー・感想・評価

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3.5『パラサイト 半地下の家族』みたいな面白さ溢れる成瀬作品

2025年3月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

松山善三脚本では2作目(井出敏郎との共同脚本も含めると6作目)となる成瀬巳喜男監督作。折にふれ画面のトーンを変えて挟まれる回想や妄想(!)シーン、攻めた映像表現など成瀬作品としてはかなりの異色作。松山の脚本が映画のタッチに影響を与えたのかどうか。それでも皮肉な幕切れまで面白く見せ切る監督の力量はさすが。

格差社会を下敷きに、女手一つで幼子を育てる母親、ヤクザなその弟と対比させるように、会社重役の夫、不倫中の美しき人妻、ほったらかしの幼児、ベテラン家政婦、お抱え運転手が配される。これを観てだれもが同じことを連想するようだが、いかにも『パラサイト 半地下の家族』のボン・ジュノ監督が撮りそうな話だ。
酔った勢いで「まつのき小唄」を歌い暴れるデコちゃんのデフォルメ演技は、同じく成瀬監督の『放浪記』(1962)の女給姿を彷彿とさせるのだが、本作の内容と照らしてさすがに浮いてみえないかと危惧する一方、こんなところがポン・ジュノ味(?)を一層強めているんだよね、とも。

そのほか、猛スピードでテスト走行するオートバイを捉えたシーンなどは、ダグラス・サーク監督作『心のともしび』(1954)の高速ボートの暴走を思い出させたりもする。ちなみに、これまた多くの人がずっと指摘していることだが、サークや成瀬はどんな変化球でもきっちり打ち返して出塁してみせるところがとにかくスゴイ。

それにしてもあの交通量の凄まじさ、信号機のない横断歩道のコワさといったら。

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いたりきたり

4.0復讐の狂騒曲、戦後からの時間

2023年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1966年。成瀬巳喜男監督。戦後の闇市で娼婦だった女は、今は旦那に死なれて5歳の子どもと暮らしている。やんちゃな子どもとなんとか生活していたが、ある日、子供が車にひかれて死んでしまう。運転していた男が自首して裁判も終わったが、ショックから立ち直れない女は、実は運転していたのは別の女だいう目撃者と会い、真相を探るうちに復讐を決意する、、、という話。
運転していた女がバイク会社の専務夫人であり、かつその車には女の浮気相手が同乗していた。真実を遠ざける社会的な力が二重に働いているわけで、それらの力が人々を縛ってさらなる悲劇を招く。
交通戦争が言われて久しい当時、事故で人生を狂わせる人々を描いた社会派映画と言える。復讐はズレながら成就してしまうのだから、単に一度抱いた信念が目的を果たすのではなく、狂わせられているのだ。白が飛んだ光のなかで復讐を夢想するシーンがいくつかあるが、その後に行われるそれぞれの実行シーンもちょっとずつズレている。必然的に、激しく車が行きかう道路で横断する人々を助けようと懸命な主人公の姿で終わるラストシーンは狂気そのものだ。そもそも、生きる目的を定め、その目的を更新しながらしつこく追求していく主人公(子ども→真犯人探索→復讐(次々に浮かぶ復讐の手口とその実行)→交通事故防止)の姿が狂気なのかもしれない。
バイク会社の専務が社内闘争をやっていたり、主人公の女や自首した運転手の過去が戦後から描かれ(口にされ)て戦後を意識化していたりと、さすが成瀬監督というほかない。

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