「脱ぎっぷりが最高」彼岸花 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
脱ぎっぷりが最高
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父権主義が、子供への愛情と時代の移り変わりの中で崩れていく様を、冷徹かつ温かいまなざしで見つめる。
最高の脱ぎっぷりを見せてくれるのは、残念ながら主演の有馬でもなく、特別出演の山本富士子でもない。毎度おなじみの、佐分利信である。勤め先から帰宅すると、洋服は畳の上に脱ぎ捨てられ、自分では片付けることなどない父権の象徴。これに正面から反発して、恋愛結婚を成就させようとする佐分利信と有馬稲子の不器用な父娘関係。
そこに、山本演じる京都の旅館の娘が現れて、子の幸せを願う気持ちを、父親に確認させることで、父権の旗を降ろすことに成功する。この山本が、非常に美しく、性的な魅力に富んでいる。この魅力は親世代にも伝わるもので、彼女との駆け引きをすることになる父親役の佐分利信は、存在そのもので、言外にその心情を観客に伝えることができる俳優だと思う。
しかし、何故他社の俳優である山本をこの作品に起用したのだろうか。その美貌だけが理由ではないはずだ。それまでの松竹作品には出ていない俳優を起用することで、外界からの来訪者という位置づけを観客の先入観に織り込ませたとしたら、大当たりのキャスティングではなかろうか。この作品における山本の役は、それほどまでに重要だということだ。
そういえば、佐多啓二の学生時代の知り合いで、佐分利の会社の若い社員、「東京マダムと大阪夫人」にも出ていた、高橋貞二。彼もまた、物語のアウトサイダーとしての役どころをその飄々とした雰囲気で、端役ながらきちんと勤め上げている。
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