「純朴な農村青年を皇軍飛行士へ錬成する国策映画は"フルメタルジャケット"どころか"トップガン"ばりの青春譚?!」ハワイ・マレー沖海戦 O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
純朴な農村青年を皇軍飛行士へ錬成する国策映画は"フルメタルジャケット"どころか"トップガン"ばりの青春譚?!
戦中当時の海軍省主導の国策映画、ということで皇国史観を背景とした銃前銃後のあらゆる面での戦争全肯定と強烈な精神論を事前に覚悟し、実際相当程度それは有るのですが、一人の飛行機に憧れる農村青年の自己実現とそれに伴う苦悩を描く青春映画の色合いも強く、終盤のミニチュア特撮の爆撃と航空機の迫力も戦後特撮へ繋がる片鱗を感じます。
今回全編通して視聴してみてまず感心したのが、今の時代でもそれと解るような青春映画としての確固とした外殻を持っている点です。特に主人公義一と同郷の先輩立花との邂逅のシーンは作中時間を経つつ二度繰り返されて丁寧に描かれており、お互いの健闘を称えて互いの高みを目指す姿はまさに夏空のように爽やかです。
一方で非常に明るく健全過ぎる軍隊生活が描かれており、戦後の作品で見られるような、単なる位階のみならず人間性まで縛り付ける理不尽な縦社会や陰惨な私的制裁は一切描かれていません。
しかしながら海軍省が国威発揚と志願者募集のために製作した映画、ということなのでそうした暗部を隠すのは当時であればなおさら已む無し、という気もしますし、たしかこの前々年公開の同じ海軍を扱った『海軍爆撃隊』ではその実際の過酷な環境の描写ゆえに志願者が減ってしまったことで本作で巻き返しを、という思惑があったという言説を読んだこともあります。
全てが美化されているのは間違いないものの、それだけに戦中当時の理想が当時の技術と俳優の粋を集めて形にされた結晶のような趣があり、あらゆる現世の艱難辛苦に耐えて最後の最後に大立ち回りを演じて華と消えていく戦後の任侠映画はこの延長線上に有る、と言えるのかもしれません。
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