張込み(1958)のレビュー・感想・評価
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16年前の『砂の器』
原作:松本清張、脚本:橋本忍、監督:野村芳太郎という巨匠トライアングルは16年後の『砂の器』にも繋がる組み合わせです。殺人事件容疑者の昔の恋人の家の前で秘かに何日も張り込み続ける内、彼女の現在の辛い暮らしが浮かび上がるという物語。
ベテランと若手刑事の組み合わせ(原作では張り込みの刑事は一人なのに、脚本段階で橋本忍さんが二人にしたのだとか)、ミステリーより人間物語の重視、音楽の巧みな挿入(本作では黛敏郎が音楽担当。ジャジーなベース音や不協和音の生かし方などは現代的)などは『砂の器』との共通点を感じさせます。動きの少ない物語なのに緻密な造りに息もつけませんでした。
雨の中でのケンケンパ
高峰秀子は主役ではなかった。刑事が主役だった。そして、高峰秀子は徹底的に観察(ほんとは監視)されるのだった。好きだった人とは結ばれず、年上の細かくて口うるさい、三人の子供がいる男と結婚し、自分の気持ちを殺して生きる女。その暮らしぶりを見ているうちに、女に同情するようになる刑事。彼にも好きな女がいた…。
殺人事件が起こり、警察が犯人を追う話ではあるが、サスペンス要素は薄い。高峰秀子は主役の刑事の、プライベートな決断を後押しする役割だった。彼女が生き生きするのは、今の生活を捨て、昔好きだった男とやり直そうと、覚悟をする瞬間であった。夏の強い光の下で、その顔は輝いていた。しかし、時は遅かったのだ〜(涙)。タイミングって大事なのね。
どしゃ降りの雨の中、下駄の鼻緒が切れて、ケンケンパする高峰秀子が、すごくかわいかった。これ、昔は出会って恋が始まる場面なんだけど、なんも起こらない〜。がっかりだよ。
BS松竹東急の「生誕100年高峰秀子特集」放送を録画で鑑賞。
この映画は、日本のフィルム・ノワールの傑作ではないか。
BS260で視聴
この映画のことは、川本三郎さんの何冊かの著書で教えられてきた。初めて観る機会を得た。
深川で起きた強盗殺人事件で逮捕された容疑者の男が、逃走中の共犯者がいたことを自供する。しかも、3年前の上京時に別れた女を忘れかねていたようだ。そこで、捜査班の二人の刑事、若い柚木(大木実)とベテラン下岡(あの宮口精二)は、共犯者を待ち伏せるために、夜行列車でほぼ丸一日をかけて佐賀へ向かう。女は、佐賀の銀行員の後妻になっていた。銀行員の家の前にあった商人宿の部屋を借りて、張込みを開始する。
これは強いコントラストのモノクロで犯罪映画を描くフィルム・ノワールではないかと思った。
二人は、宿の2階の物陰から女を見張っている。女が買い物や、銀行員の代理として葬儀のため外出する時、クラシックの作曲家である黛敏郎の作ったモダンジャズが流れる。ピアノ、ドラムスにクラリネットのトリオが多いが、弦楽がからむこともある。これが素晴らしい。背景の自然音に調和し、しかも臨場感がある。撮影にも工夫がこらされていて、宿からの見張りの場面はセットだが、女が外出するとロケの映像が使われる。しかし、そこに切れ目はない。さらに、それまでの捜査の経過や、捜査員の境遇がフラッシュ・バックで挿入される。見事な脚本。フレンチ・ノワールにも負けない出来栄え。
ただいくら張込みを続けても、何も起こらなかった。最後の7日目、もう帰京する日になって、僅かな前兆の後、ついに女が動き出す。柚木が一人で尾行することになるが、お祭りに巻き込まれ、すぐに見失ってしまう。二人が再会すると予想し、懸命に追いかける。ただし、柚木のモノローグは説明的で興がそがれる。やっと二人を探し当てるものの、あんなに近くで見守っていたはずなのに、また見逃してしまい、動きはややコミカル。しかし、それを補って余りあるのが女を演ずる高峰秀子の演技。「二十四の瞳」、「浮雲」の後で、彼女の女優としての最盛期と思われる。それまで家事と3人の子の育児を行うだけで、何の心の動きもなかった。男と再会して、情熱が吹きこぼれる。しかも清楚で、限りなく美しい。
事件が決着し、再び夜行列車に乗って二人の刑事が帰京する時、最初、東京駅で夜行列車に乗ろうとして記者に嗅ぎつかれ、やむなく省線(JR)で横浜に出て、列車に飛び乗ったことが明らかにされ、環が閉じる。
この映画のことを教えてくれた川本三郎さんと、放映したBS260に感謝。
松竹初のグランドスコープ作品。SLと大高原が映える。
前半は刑事が女の生活を見張る描写が続く。
女は必要最低限を除いて、外へ出かけることもなくいつも家にいて、継子3人の面倒を見つつ、神経質な夫から小言を言われながらも淡々と家事をこなしている。女の生活は単調かつ空虚で、外へ出かける子どもに声を掛けることもなく無関心・無感情に描かれている。
張込みの間中は結局何事も起こらないのだが、男からの連絡を臭わせる時に使われる現代音楽のような響き、女が外出する時に使われるハイハットの刻みから始まるジャズが、緊迫感とサスペンスの雰囲気を醸していた。
1週間の張りこみも虚しく帰ろうかという段になって物語はようやく動き出す。
バスで移動した男と女を刑事は車で追うのだが、途中、工事の発破作業に出くわし足止めをくらってしまう。導火線に火を着け岩が爆発する様子は、女の情念がかつての男との逢引きによって着火し噴出したことをあからさまに表していて、恋路の邪魔をするなと言わんばかりのこのストレートな演出は心憎かった。
田園地帯を車が走り抜けるのを上空から写したショットや、曲がりくねった山道をSLと並んで疾駆するシーンは迫力満点で、音楽も交響曲のようなもの(銅鑼も鳴る)に変わり、追いかける刑事の焦りと女の情念の奔流、いよいよ佳境に入る物語の盛り上がりが伝わってくる。画と音楽とストーリーが三拍子見事に揃い圧巻だった。
狭い生活圏から抜け出し、広い高原でかつて愛した男と二人っきりになった女は子供の様に無邪気にはしゃいで、男と抱き合いキスを交わす。その様子を草葉の陰から見ている刑事が心内で「あの控えめな、あの物静かな女が…」とこぼす。二人を見つけるまでに何度も見当を外して、汗だくになりながら山林の中を走り回っていた描写が利いていて、滑稽さがあり可笑しかった。
その後、二人は温泉宿に入るが、先に湯から上がってきた所を挟みうちにされ、男は御用となる。男の逮捕を告げられ、女(高峰秀子)が泣き崩れるシーンは前半の生気のない単調な生活の描写が利いていて、もうかなりグッときてしまうのだが、「この女は数時間の命を燃やしたに過ぎなかった」という刑事の心内語りで、センチメンタルな気分を一気に覚めさせられてしまう。そして、「今晩からまたあのけちな夫と繊細な子ども達の生活に戻らねばならない」と語り、残酷な現実を突きつける。その語りをなぞるように、衣桁に掛けられたブラウスとスカートを手に取り浴衣の帯を解く高峰秀子の姿はあまりにも悲しく惨めだった。
さぁ、張込みだ‼️
映像の世紀(昭和の記録として)
完璧な名作です!
原作 松本清張、監督 野村芳太郎、脚本 橋本忍、音楽 黛敏郎という布陣で面白く無い訳がないです
果たして期待以上の面白さ!
登場する主演男優も、ヒロインの高峰秀子も、脇役の浦辺粂子等も見事、皆素晴らしい演技です
カメラも良い映像でしかもワイド
張込みという設定を、クレーンでヒロインの日常を俯瞰するという極めて映画的な撮り方で活かしています
さらに佐賀の市内、郊外、九州の高原を美しい階調で撮っています
序盤で宿に入って聴こえてくるラジオの天気予報
良く聴くと確かに雷雨を予報してます
芸が細かいです
冒頭の長い長い列車シーンが続いてようやく張込みが始まりやっとタイトルがでます
このシーンも駅名表示や駅名をズラズラと登場人物に語らせたり、関西訛りの男を出したりして、その遠距離さを表現すると同時に、遠隔地で の捜査の大変さを私達観客に手早く飲み込ませてくれます
そして息が詰まるような変化のない張込みシーンが延々と続いた後、起承転結の転からの動きのある展開に一気に雪崩れ込むのです
空撮まで取り入れて地平線まで広がる田園地帯を走る車を追い、やがて美しい光線の溢れる高原へ誘われることで、そこで解放感を感じるのです
それはヒロインが感じている解放感を観客に理解させる為の演出でもあった訳です
この素晴らしい構成にも舌を巻きます
尾行シーンではモダンジャズ風の緊迫感のある音楽が乗ります
まるでフランス映画のフィルムノワール的な味わいを醸し出します
高峰秀子のヒロインと犯人との会話が若い刑事の抱えている心情にビシビシ突き刺さっていくシーン、そしてラストシーンの若い刑事が犯人にかける言葉は実は自分のことである二重性も素晴らしい味わいを残します
完璧な名作です!
高千穂ひづる
彼女の愛と真実
Blu-rayで鑑賞。
原作は未読です。
東京から夜行列車で出発するふたりの刑事。佐賀に着いたふたりは、宿の2階から一軒の家を見下ろす。
強盗殺人容疑者(田村高廣)のかつての恋人(高峰秀子)が住んでいて、容疑者が訪ねて来る可能性がある。
柚木刑事(大木実)が心で呟く―「さぁ張込みだ!」。柚木の目のアップに被さるようにタイトルがドーン!
インパクトのあるタイトル出しでした。とてもスタイリッシュで、一気に映画の世界へ引き込まれました。
本当に容疑者は現れるのか。緊迫した展開にハラハラ・ドキドキ。夏のうだるような暑さが焦燥感を増幅させていく。
刑事が張り込んでいることが、対象にも周囲にも気取られてはならないと云うスリルもあって手に汗握りました。
容疑者と別れた後、別の男と結婚していた女。子育てに追われ、夕食の買い物に出掛ける、いたって平凡な生活を送る。
でもどこかハリを見出せず、退屈している印象も。
一転、昔の男との追憶の恋に身を焦がす「女」の部分が表れて、その変わり様はとても同じ女とは思えぬほどの激しさ。
高峰秀子の演技に惚れ惚れとし、好きが増しました。
※修正(2023/07/14)
ストレンジャー・ザン・パラダイスみたい
汗!汗!汗!
松本清張原作の映画化の中では、最高傑作の呼び声が高いのがこの作品。
ある夏の暑い九州佐賀県。
女は日々の日常を、ただロボットの様に過ごしていた。
冒頭から最後まで張り込みをする刑事の顔から滴り落ちる汗!汗!汗!。
その暑さが偲ばれる。
満員の夜行列車で佐賀まで。青春18切符で実際にその辛さを個人的に経験している(現実的にはもっと辛らい筈)だけに感慨深い。
映画は主に若い刑事役の大木実の視点によって語られて行く。
次第次第に張り込みをされる高峰秀子の悲しい人生に肩入れしてしまうのは、自身の恋愛と対象させているからに他ならない。
大木実の視点から語られながらも、ワンシーンだけ彼との恋愛関係に悩む高千穂ひづるの家庭環境と、高峰秀子の住む家の中でのワンショットだけは少し違和感が有ったのが残念でした。
普段の日常を、感情を持たないロボットの様に毎日を過ごしていただけに。高峰秀子が最後に流す涙の意味は、女の惨めさを強調しており映画に深みを与えています。
見た目は地味だが、緊迫感のあるサスペンス
この映画、派手なものを求めている人なら絶対に物足りない映画になるだろう。
しかし、これぞサスペンスな映画で今、見ても結構おもしろかった。
今作は、とにかくリアルを追求していて音楽もそんなになく、地味である。
しかし、これ張り込むだけのシーンなのに緊迫感を感じられる。劇場だったらその場にいるような臨場感を味わえる作品だと思う。
さらに張り込みだけで緊迫感があるのに尾行シーンでさらに上げさせられる。とにかくいつバレるのかのドキドキ感があって画面に釘付け。
クライマックスの追跡シーンでさらに映画は盛り上がっていき、最後の方で彼女の待ち続けた恋愛映画でもあることがわかり、ラストはどこか切なく終わる作品だった。
やはり野村監督は、こういう緊迫感を上げる作りがウマいな…。
最後の妻が泣くタイミングはリアリティを追求していたことがわかる見事な演出だった。あと、張り込みで見た妻の家の雰囲気で後々に会う犯人と今のつまらない家庭の対比も見事でした。
とにかく白黒作品ではあるが、今見てもおもしろいと言える傑作でした。
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