「自然の猛威と人間の愚かさ」八甲田山 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
自然の猛威と人間の愚かさ
この、雪、雪、雪にまみれた本作は、見ていてとてもしんどいが、何度でも見返したくなる。
撮影2年、本物の暴風雪のなかで敢行されたロケにより、本物の疲労や恐怖を俳優に体現させたという。失わなくてもいい命をあたら無惨に散らしてしまった兵隊達の無念さが俳優陣に憑依したかのように、鬼気迫るものがあった。
軍隊において上層部の判断に従わなくてはならないのは東西各国どこも同じだと思うが、特に日本人は何かを途中で 「やめる」という英断がなかなか出来ない質なのではと思う。
話は横道に逸れるが、もんじゅのドキュメンタリーでも同じようなことが関係者の口から洩れていた。「誰もが無駄なのではないかと思い始めても、それを口にしない。今までの時間が無駄になるから」 それは、言い返せば誰も失敗の責任を取りたくないという逃げの現われで、日本人の悪い特性だと思う。
兵隊にとって「やめる」という行為は卑怯に置き換えられてしまうのだろうが、無謀というのは勇気と違う。 統率の乱れ、指揮系統の乱れが命を左右する。
ここで、あそこで、ああしておけばの連続で見ているこちらも苦しくなり、たかだか訓練で死んでしまっては元も子もな いじゃないかと本当に口惜しく、怒りさえ湧いてくる。
「白い地獄」を前にした虫けらのような人間。神田大尉の言葉を借りると「雪とは一体なんなのだ」と、雪に自然に圧倒された作品だった。
これはもう理解しようがしまいが、学校などの教育現場で見せてほしい作品。自然への甘い認識、無知な上層部の横やり、 組織の悪しき面などなど反面教師として学ぶことがたくさんあるし、また、これほど真剣に作られた映画があったことと、この物語を受け継いでいく重要性も伝えていくべきだと思う。