「「コロナ禍」「不況」そして「高齢化社会」。 離職や転職を余儀なくされた人たちの強い共感を得るのではないか。」荒馬と女 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
「コロナ禍」「不況」そして「高齢化社会」。 離職や転職を余儀なくされた人たちの強い共感を得るのではないか。
一生忘れることの出来ない一本になりました。
「西部もの」と聞いていたので
のっけからの裁判所でのマリリンの離婚調停と、77回目を誇る調停立会人のオバチャンの登場でビックリです!
脚本は作家のアーサー・ミラーです。マリリン・モンローの夫だったお人です。
ともかく素晴らしい出だしで始まるストーリー。もたもたとノリの悪いスタートを切ることの多い昨今の映画界に、叱咤の鞭をくれてやる勢いで、本作、冒頭から飛ばし気味です。
会話が面白い。気に入りました。
大都会シカゴからやって来たマリリンとの、実にテンポ良い掛け合いで、ネバダの男たちが次々とノックダウンされて行くわけですが、
しかし、
都会からやって来たこの風変わりな女の子に夢中になった「三人の男たち」を通して、その彼らの「人生の経過点」と「分岐点」を映すことで、
ストーリーの後半は、現代にもそのまま直結する「生きることの苦難」をこそ、テーマに持つ映画だったのだと判明します。
カチンコも、撮影の進行のスピードも落として、じっくりと登場人物たちの心情を映すのです。
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①第1世代
若者たち、パースたちには未来があり、女の子の存在にも掛け値なしに夢中になれる。持ち時間は永遠に有る。若気の至りだ。
だからロザリンの心情にそのまま共感し、ロザリンの言葉を受けて一緒に馬を逃がす。
②第2世代
修理工のギドたち、中年の中堅世代は違う。人生の苦難も結婚の辛酸も知っている。
しかし完成させるべき仕事も課題も計画も、この第2世代はがっちりと同時に継続をし、維持している。ギドは「建築中の家屋」と「新しい飛行機のエンジン」を調達するための、彼の人生設計を捨てるわけにはいかない。
人生は遊びではない。馬は殺して売らなくてはならないのだ。
③第3世代
ゲイ=クラーク・ゲーブルはさらに違う。
世を俯瞰している。自分の齢を知っている。
ヘンリー・ミラーの最初の戯曲原作は女抜き。男たちの物語。
映画化のための加筆=マリリンの登場は、たまたまのきっかけに過ぎない。
劇中繰り返し「年寄り」と呼ばれる彼=クラーク・ゲーブルは、誰に言われるでもなく、すでに引退と町の老人ホームへの入居を考えていたはずだ。
つまり
「老境に差し掛かる頃の独り者のカウボーイ」。それがこの世代を象徴するゲイという男なのだ。
彼が、とき至りて、自分で捕らえていた夢と、握っていたロープを 自らの手で放す。
・・この世代間のストーリーとして、
似たような段階を経てきた者として、僕には激しく痛く、衝撃をもって、これら三者の生き様が胸に響いたのだ。
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時代が変わってしまって、仕事や夢を諦めなければならなかった、私たちのこの数年。
3年間の本当に辛かったコロナ禍。
戦争と、円安と、増税と、原油高と、地震と。
加えて農水産業界には、冗談ではない深刻な打撃を与える世界的気候変動と。
クラーク・ゲーブルが時代の変わり目を嗅ぎ取り、「カウボーイを辞めようか」と、目を細めて笑いつつ逡巡する― 彼の寂しい目。
娘ほど年下のロザリンを愛でながら、年輩者として身の程を知るゲイ。
転職してランドリーの店員になろうかと云うセリフ。
これは私たちの現代にそのまま通じるけっこう重たいテーマだったのです。
でも本作は、ヒロイン=マリリン・モンローのおかげで何とか娯楽映画の体を守っています。
ワードローブの扉に自分のピンナップを発見して慌てるシーンや、たくさんのボケかましの台詞。
(これがもしもイングリッド・バーグマンで、ポーランド映画であったなら・・観る当方の落ち込み様も、相当のものだったと思うけれど)。
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原題は【 The Misfits 】
つまり
「(社会に)適合しなくなった者たち」という意味。
クラーク・ゲーブルは、スタントマンを立てずに荒馬に引きずられるあのロケを終えて、クランクアップの直後に亡くなっています。
あれは本人にもその自覚があったのだろうか?
ストーリーそのままに「大スターが西部劇のヒーローを引退する“最後の儀式"」になってしまった訳です。
熱狂的なゲーブルファンからは「お前が殺したのだ」と猛烈な誹謗中傷と叩きに遭ったロザリン。
=2年後に、このロザリンを演じたマリリン・モンローも死去。
二人の主演者にとって遺作となってしまったこの作品には、なにか胸が詰まらずにおられません。
そこには自然がある。
生きるんだ。
寝て、起きる。
わかるわ・・
映画界を離れてあの世に越した二人。
印象的な台詞を脚本のここかしこに散りばめたヘンリー・ミラーの力作でした。
予想外の傑作でした。
レビュー数はこんなに少ないし、
評価の低い人たちのことを責めることはしないけれど、きっとそういう人たちは若い第①世代か、まだ勇壮な働き盛りの第②世代に、現在ご本人が立っておられるのだろうと思う。
もっと多くの人に観てもらいたい。
特に第③世代の方々に勧めたい。
僕は「自分の姿」を見るようでした。
一生忘れることの出来ない一本になりました。