劇場公開日 1951年10月3日

麦秋のレビュー・感想・評価

全38件中、21~38件目を表示

5.0日本映画のオールタイムベストだけでなく、世界屈指の名作とされるのも当然のことだと思います

2019年10月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

感動の涙が流れました
主人公は原節子の演じる紀子のようで、実は紀子の父親周吉だったのだと思います
終盤の周吉老夫婦が短く会話を交わし、遠くを見つめるともなくみやるシーン
人生の様々な出来事が二人の胸中に長く思い返されているのです
家族がうまれ育ちまたそれぞれに家族をつくり離れていく
本当に幸せでしたよ
周吉の妻のその台詞にこそ本作のテーマが込められてあると思います
その妻の言葉を周吉は噛み締めています
普通の暮らしをして老いていく、そして子供達はそれぞれに自立して巣立ち、自分たちは生まれ故郷に帰り人生を振り返る
このような幸せな老境に達した幸せ
戦争で次男を失くす不幸はあってもこれ以上の贅沢は言えない
その平和のありがたみがラストシーンの耳成山を背景にした奈良盆地の光景に表されていると思います

空に消えて行く風船は戦地から未だ復員せずもう死んだものと諦めている次男のことを象徴しているのでしょう

踏切で走りさる横須賀線の電車を見送ったまま、遮断機が上がっても動かず遠い目をする周吉
彼の脳裏には過ぎ去った人生の数々のシーン横須賀線の電車と同じように猛スピードで去来していたのだと思います

シーンとシーンの間の登場人物がいない独特の余白の空気感
胸中に渦巻く色々な思いを言葉にはせず、遠くを見つめる登場人物達
友人あやの母親の探し物シーンなどのくすりとするギャグも冴えています

日本人だけに分かる日本人だけの映画のようで、世界中の誰もが共感できる普遍性のある映画だと思います
日本映画のオールタイムベストだけでなく、世界屈指の名作とされるのも当然のことだと思います

紀子は矢部と突然結婚を決意します
その理由は確かに彼女の言う通りだと思います
しかしそれは彼女が自分で自分を納得させている言葉のように思います

ニコライ堂近くのお茶の水の喫茶店で矢部とコーヒーを飲むのですが、戦死したと思われる大好きだった兄の省二の手紙のことを彼女は矢部から聞きます
その時に彼女は矢部に兄省二の面影を見たのは確かでしょう
だから、あやに矢部のことをあなた好きなのよと言われた時、彼女は違う、安心できる人だから結婚するのよと答えたのです
ほら、やっぱり惚れちゃたのよと言われても、そうじゃない!と言い張るのです
そして家に帰り独りでつまらなそうにお茶漬けを啜る時の彼女の顔にはいつもの笑顔は無く、少しも楽しそうではないのです

彼女がその年になるまで独身でいたのは、妻子も有るであろう上司の専務に憧れていたからではないでしょうか
序盤での専務との会話はまるで夫人のようです

専務は節度を持って接しており、縁談まで世話しようとしていますが、終盤の退職の挨拶に来た紀子に彼はつい本音を冗談として口にします

もし俺だったらどうだい
もっと若くて独り身だったら・・・

駄目かやっぱりとお互いに笑ってごまかすのですが、彼は痛む腰を無意識に叩き、もう若く無いと自分に言い聞かせ戒めています
そして彼女に東京を良く見ておけと言いつつ、彼女の喪失の重さを今になって思い知っているのです

彼は本当は遊び慣れている男であることは、あやがかれのところに来た時の寿司の会話で分かります
蛤と巻き寿司は好きかい?の問いかけは、実は猥談です
料亭育ちのあやは直ぐにそれに気がつき怒ったのです
もっと言えば、あやもまた専務に魅かれていて紀子にかこつけて何かにつけて彼のところに通っています
密やかな三角関係が水面下にあったのだと思います

そうして家族写真撮影のあと、家族団欒の夕食のシーンでオルゴールを思わせる音楽がなり続けます
これがこの家族の記憶にいつまでも残るであろうことを演出する秀逸な音楽であったと思います

そしてこの大家族がそろって食事するのももう最後になると言う会話になったとき、バラバラになる家族の原因を自分が作ってしまったと紀子が泣くシーンになるのです

実は彼女はそれだけが原因で泣いているのではないと思います
憧れの専務から逃げ出して、手近にあったきっかけに飛びついていただけなのだと、やっと自分で思い至った、その涙だったのだと思うのです
その結果に彼女は今さらながら気がついたのではないでしょうか

専務とあやとの会話のヘップバーンとはオードリーではなくて、キャサリン・ヘップバーンの方です
彼女はフィラデルフィア物語など気の強い現代的な女性を演じるのが常でした

初夏、麦が実る季節
劇中の季節だけでなく、紀子も人生の初夏を迎えているのです
実らぬ恋を諦めて矢部と結婚をし秋田に行った彼女は、これから色々な苦労を経験し乗り越えていくのです
そうして彼女も周吉達のような老夫婦になっていくのでしょう

そのような感慨をもって、花嫁が行くよと周吉は眺めているのです

その花嫁の行列が進む背景にある低いなだらかな山は大和三山のひとつ香久山です
ラストシーンの三角の小さな山はこれも大和三山の耳成山です
奈良盆地の中央、近鉄大阪線の耳成駅の南側1.5kmの辺りでのロケのように思われます
振り返って南を見れば香久山です
ここから北側の耳成山方向は結構都市化して今はもう見渡す限りの田圃の光景は見られなくなっていますが、南側の香久山方向は周吉夫婦がみたような一面の田圃が今も広がっています
残念ながら麦はもう植えられてはいないので麦畑ではありません
そこに点在する集落の中には映画に写るような古民家もまだほんの少し探せば残っていると思います
奈良観光の際は大仏だけでなく、足を伸ばしてこのロケ地辺りまで脚を伸ばして散策されては如何でしょうか
耳成山も香久山も山の姿は今も変わりはありません
藤原宮跡はそこから徒歩で西に直ぐそばです
明日香村にも車で近いです

もしかしたら勇ちゃんが周吉の兄・茂吉のような老人となって大和に墓参りに来ているかも知れません

コメントする 1件)
共感した! 18件)
あき240

5.0小津安二郎の映画で一番好き。冒頭の出勤・登校前の朝の風景の演出は素...

2019年5月23日
Androidアプリから投稿

小津安二郎の映画で一番好き。冒頭の出勤・登校前の朝の風景の演出は素晴らしい。ラストシーンに耳成山が出てきます。当時は周りにホントに何もなかったんだなぁ、と映画とは関係ないところでジーン。

コメントする (0件)
共感した! 6件)
もーさん

4.5☆☆☆☆★ 「いいのかね〜、勝手に決めちゃって」 「本当に困ったも...

2019年5月5日
iPhoneアプリから投稿

☆☆☆☆★

「いいのかね〜、勝手に決めちゃって」

「本当に困ったもんですよ」

「う〜ん、どうしたもんかね〜」

小津の描く家族。それは世界にも類を見ない唯一無二な世界。

映画の途中で、楽しい会話の中。いきなり戦争から帰って来ない、消息不明の家族の会話になり。それまでの楽しい会話は暗くなる。

「もう帰らんモノと思ってますよ。これは(妻は)諦めておらんみたいですが…」

『晩春』でも、いきなり戦争の話題が登場し。一気に映画の世界観を一変させ。そして『東京物語』では、映画の歴史上でも驚異的と言えるあの台詞が原節子の口から発せられる。

「あたし…狡いんです」

《もはや戦後ではない》

当時の世の中がそんな風潮の空気の中、小津からの問い掛けは。一見して、映画が描く世界観からは逸脱した隠れたところで。
「忘れる訳が無い!忘れてはいけない!」…と言ったメッセージなのだろうか?

小津が描いた家族は、どうみても中流以上のかなり恵まれた家庭で間違いないのだと思う。
それでもなお、娘(この作品では妹)の結婚相手には、より位が高い身分の人に…と思う。

年齢差が有る事に不安を口にする母。
それに対して「贅沢言ってられないんだ!」…と。
「贅沢なのかね〜…」と母。
嫁を貰う男の立場に反し。嫁に行く女の立場の違いには、延々に相容れない深い溝が在るのかも知れない。
その為なのか?それまでのルンルン気分だった家の中が、まるでお通夜の様になってしまう。

遂に決断する原節子。
それまで、まるで〔サザエさん〕の様な家庭で在ったのに、あっと言う間に家族が散り散りになる運命が待っている。
この辺りの。小津演出による、観客の脳天にズドンとハンマーを振り落とす手腕は恐ろしい。
しかも、その一気に落ち込んだ心を。家族写真で一瞬の内に引き上げる手腕にも、やはりとんでもない程の恐ろしさを感じない訳にはいかない。

ちょっと前のネットの情報で、小津作品に於けるショットの秒数を数えた人が居たらしい。
特に晩年の作品に関しては。、上映時間を総ショット数で割ると。1ショットの平均秒数が殆ど一致していたらしい。
それが本当だったならば。小津は、1ショットの積み重ねで人間の感情をコントロールする事を考えていた事になるのかも知れない。

【行き組】と【行かず組】との人参問答(『晩春』では大根)を始めとする。多くの楽しい会話のキャッチボールの裏で起こるいざこざや、親夫婦の侘しさ等。
常々、個人的に。小津安二郎とゆう人に対して抱いていたのは…時代が時代ならば、ホラー映画作家になっていたんではないか?…と思う事がたまに在ったのだけど。まさに『麦秋』は、その思いを再確認(勝手にですけど)させてくれる作品でした。

初見 並木座

2019年4月18日 シネマブルースタジオ

コメントする (0件)
共感した! 4件)
松井の天井直撃ホームラン

3.5戦後日本のスクラップ&ビルドを家族というフィルターを通して描かれて...

2019年3月9日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

戦後日本のスクラップ&ビルドを家族というフィルターを通して描かれている。小津映画でもかなり地味な部類

コメントする (0件)
共感した! 4件)
ちゆう

4.0・子ども2人が出てくるとわくわくした ・杉村春子があまり目立たない...

2019年3月8日
iPhoneアプリから投稿

・子ども2人が出てくるとわくわくした
・杉村春子があまり目立たないなぁ、おかしいなぁと思ってたけど後半の展開で納得
・自分で結婚を決めた紀子に対する家族の反応が時代を表してる。いや、ひょっとして現代も陰でそういう反応してるのか?

コメントする (0件)
共感した! 4件)
小鳩組

4.0 一番好きなシーンは原節子と淡島千景が東北弁で会話するところ。後半...

2018年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 一番好きなシーンは原節子と淡島千景が東北弁で会話するところ。後半になって笑えるシーンがいっぱいでした。

 これは身につまされる内容であった上に母親と一緒にと観てしまった(子供が居たほうが結婚できるのかぁ)。と、何かを言われるんじゃないかと、びくびくしてしまいました。

コメントする (0件)
共感した! 10件)
kossy

4.0笑顔の裏は?

2018年7月7日
Androidアプリから投稿

紀子は本当に矢部が好きで嫁ぐことにしたのだろうか?惚れていた相手に見合いを仲立ちされたところに秋田への転勤が決まった矢部は渡りに船だったのか。自分が独身でいることが家族を繋ぐ鎹に成っていることに気付いていたのか。紀子の笑顔の裏側にある感情は何だったのか。色々と自分にははんだんがつかなかったが、画面の構成や仕草、間の取り方、やり取りの言葉などすべてのがとても印象的。

コメントする (0件)
共感した! 5件)
komasa

5.0『もののあはれ』の一歩先

2018年6月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 7件)
kkmx

3.5良くも悪くも小津映画。 何も起こらないし、役者もみんな一緒です。 ...

2018年3月7日
iPhoneアプリから投稿

良くも悪くも小津映画。
何も起こらないし、役者もみんな一緒です。
でもノスタルジックで何だか心に染み入ります。

コメントする (0件)
共感した! 4件)
やまぼうし

2.0心に伝わるものは無い

2018年2月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

終戦直後の上流階級家庭をユーモアを織り交ぜながらを描いた作品。特に心に伝わるものは無く途中は睡魔にも襲われてzzz…。残念ながらこの作品の良さを感じる事が出来ませんでした。
(午前十時の映画祭にて鑑賞)
2018-43

コメントする 1件)
共感した! 5件)
隣組

3.5これにて紀子三部作制覇。 相変わらず冒頭から平々凡々の日常生活が描...

2018年1月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

これにて紀子三部作制覇。

相変わらず冒頭から平々凡々の日常生活が描かれていく。そして又々定番の嫁にいくのか、いかぬか問題。正直ちょっと食傷ぎみ。その他の事件は起こらぬものか?
来た来たー!子どもがいじけて、なんと食パン蹴っ飛ばしよったで。当然怒られる子ども、えっ、でもそれだけ?こら、フルボッコにせなあかんのちゃう?挙げ句はいじけて帰らぬ子どもを総出で探す家族ばかぶり。ほっとけ!
これが唯一のヤマだった。突如自ら決めた結婚も今ひとつのインパクト。
三部作の最高峰に推す人も多い本作だが、私は見る順に…舞台もキャストもほぼ変わらずでどんどん慣れてしまうからかな。しばらく嫁にいくやらいかぬやらは敬遠しよう(笑)

コメントする (0件)
共感した! 3件)
はむひろみ

5.0●必見。

2017年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

笑える

幸せ

何気ない日常が生き生きと輝く。そこには愛がある。何よりあたたかい。
ボケかかったじいさん。悪さするガキども。年頃の女の子たちのたわいない会話。
自然と笑みがこぼれる。幸せな気持ちになる。

原節子に淡島千景。もう綺麗とか可愛いとかのレベルじゃない。女神だな、ありゃ。
ふたり揃って、憎まれ口をたたくシーンが好きだ。「ねえ」がリフレインする。

ゆったりと時が流れ、小鳥がさえずる。平和だ。ふとした瞬間に入る一コマが本当に美しい。
風船が飛んでくシーンは、白黒なのに、晴れ渡った青い空が実感できる。そこに戦闘機はない。

戦地から帰ってこない者もいて、口ではあきらめたという親父。
昭和の大家族。家族が支え合っていた時代。なんとも清々しい。
ひとつひとつのシーンに、それぞれの人生に、ドラマがある。
杉村春子の一言。息子がいくつになっても変わらぬ親心。骨身にしみたわ。

「麦秋」ってタイトルも、なんとも粋だ。初夏の収穫時。梅雨入り前の短い期間。
人生の最も輝いてる時期を戦争なんかで費やすんじゃないって。そう監督が言ってるようにも聞こえた。

コメントする (0件)
共感した! 3件)
うり坊033

3.5人生の収穫

2017年4月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする 1件)
共感した! 8件)
everglaze

3.0小津の世界観がよくわかる作品

2017年4月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

小津の世界観がよくわかる作品

コメントする (0件)
共感した! 2件)
tsumumiki

4.0年を重ねてわかる小津の魅力

2016年3月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

楽しい

知的

幸せ

若い頃に小津映画を見たとき、正直つまらなかった。淡々としてクールな演出や映像表現が欧米で受けているのかなあとそんな受け取り方をする西洋人の浅薄さのようなものを感じたりして。しかし年を重ねてからこの映画を見ると、日本人の微妙な心のやりとりや美質を、失われつつある日本人の内面的な品性を表現したかった小津の気持ちがよく理解できるようになった。これは傑作であると。同時に見た「晩春」と並び優れた作品である。

コメントする (0件)
共感した! 6件)
k.mori

4.0小津手法で描かれた戦後間もなくの人間模様

2015年4月21日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

知的

戦後、間もない時期の大家族の暮らす中、縁なく婚期の遅れた娘が近くの知人に嫁ぐまでの人間模様を小津手法で描いた一篇。 やはり、現代風の気の短い人には最後まで集中して鑑賞するのは困難と一般的には思いますが、家族や孫を持つ年齢の立場で観ると、時代回顧と相まって深く感じるものが沢山ありました。当時の時代の雰囲気として、戦争の悲劇も間接的に伝えています。小生もラジオで幼い頃に「尋ね人」を聞いたのを覚えていますが、今の若い人たちにもそういうことがあったということを是非知っておいて欲しいです。いろんな意味で、映画は時代雰囲気の鏡と言えます。

コメントする (0件)
共感した! 4件)
chakurobee

3.5日本の良き映画

2015年2月22日
iPhoneアプリから投稿

楽しい

幸せ

日本人としてこの映画に出会い、観ることができて良かった。

日本人にある相手への思いやりの気持ちが、会話の節々に感じられる。

家族の中がしっかりと小さな社会として成立してて、尊厳と愛情があるがままに存在し受け入れられている。

穏やかな人物たちに、美しい風景。日常の一場面に過ぎないのだが、その一瞬一瞬に確かなドラマがあり、移り変わる時の流れや、その人その人の心情が見事に描かれてる。

無駄がなく、緊張感を抱かせない、見事な映画。

コメントする (0件)
共感した! 4件)
人尽天

4.5間宮家の人々

2014年10月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

幸せ

この作品の何とも言えない良さは、やはり「一度、観てみてください。」というのが一番かと思います。『晩春』の後の鑑賞になりますが、相も変わらず、古風だけれど、時代を問わない普遍的な美が描かれているように感じました。原節子さんの言葉づかいにも、すっかり耳が慣れ、親近感すら覚えます。印象的なシーンは幾つかありますが、くすっと笑えるのはケーキを夜分食べるシーン。あと、御両親が二人並んで風景を観ながら「今が一番いい時かもしれませんね」と話しているところでしょうか。登場人物の言葉の一語一句に聞き入ってしまう自分がいます。

コメントする (0件)
共感した! 4件)
sonje
PR U-NEXTで本編を観る