劇場公開日 1951年10月3日

「☆☆☆☆★ 「いいのかね〜、勝手に決めちゃって」 「本当に困ったも...」麦秋 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5☆☆☆☆★ 「いいのかね〜、勝手に決めちゃって」 「本当に困ったも...

2019年5月5日
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☆☆☆☆★

「いいのかね〜、勝手に決めちゃって」

「本当に困ったもんですよ」

「う〜ん、どうしたもんかね〜」

小津の描く家族。それは世界にも類を見ない唯一無二な世界。

映画の途中で、楽しい会話の中。いきなり戦争から帰って来ない、消息不明の家族の会話になり。それまでの楽しい会話は暗くなる。

「もう帰らんモノと思ってますよ。これは(妻は)諦めておらんみたいですが…」

『晩春』でも、いきなり戦争の話題が登場し。一気に映画の世界観を一変させ。そして『東京物語』では、映画の歴史上でも驚異的と言えるあの台詞が原節子の口から発せられる。

「あたし…狡いんです」

《もはや戦後ではない》

当時の世の中がそんな風潮の空気の中、小津からの問い掛けは。一見して、映画が描く世界観からは逸脱した隠れたところで。
「忘れる訳が無い!忘れてはいけない!」…と言ったメッセージなのだろうか?

小津が描いた家族は、どうみても中流以上のかなり恵まれた家庭で間違いないのだと思う。
それでもなお、娘(この作品では妹)の結婚相手には、より位が高い身分の人に…と思う。

年齢差が有る事に不安を口にする母。
それに対して「贅沢言ってられないんだ!」…と。
「贅沢なのかね〜…」と母。
嫁を貰う男の立場に反し。嫁に行く女の立場の違いには、延々に相容れない深い溝が在るのかも知れない。
その為なのか?それまでのルンルン気分だった家の中が、まるでお通夜の様になってしまう。

遂に決断する原節子。
それまで、まるで〔サザエさん〕の様な家庭で在ったのに、あっと言う間に家族が散り散りになる運命が待っている。
この辺りの。小津演出による、観客の脳天にズドンとハンマーを振り落とす手腕は恐ろしい。
しかも、その一気に落ち込んだ心を。家族写真で一瞬の内に引き上げる手腕にも、やはりとんでもない程の恐ろしさを感じない訳にはいかない。

ちょっと前のネットの情報で、小津作品に於けるショットの秒数を数えた人が居たらしい。
特に晩年の作品に関しては。、上映時間を総ショット数で割ると。1ショットの平均秒数が殆ど一致していたらしい。
それが本当だったならば。小津は、1ショットの積み重ねで人間の感情をコントロールする事を考えていた事になるのかも知れない。

【行き組】と【行かず組】との人参問答(『晩春』では大根)を始めとする。多くの楽しい会話のキャッチボールの裏で起こるいざこざや、親夫婦の侘しさ等。
常々、個人的に。小津安二郎とゆう人に対して抱いていたのは…時代が時代ならば、ホラー映画作家になっていたんではないか?…と思う事がたまに在ったのだけど。まさに『麦秋』は、その思いを再確認(勝手にですけど)させてくれる作品でした。

初見 並木座

2019年4月18日 シネマブルースタジオ

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松井の天井直撃ホームラン