野菊の如き君なりき(1955)のレビュー・感想・評価
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【“野菊の花の如き君。竜胆の花の如き貴方。”今作は、伊藤左千夫の傑作悲恋小説「野菊の墓」を、木下恵介監督が品性高く映像化した切なき恋物語である。】
ー 伊藤左千夫の初小説「野菊の墓」を激賞したのは、夏目漱石である。
そして、数年後、夏目漱石が「野菊の墓」へのアンチテーゼとして上梓した作品が、当時巷間を騒がせた傑作小説「それから」である。
尚、これはNOBU説である事は、敢えて記載する。-
■旧家の次男・15歳の政夫の家には2つ年上の17歳の従姉・民子が手伝いにきていた。
2人は次第に恋心を抱くようになるが、周囲の大人たちはそれを快く思わず、政夫は母親(杉村春子)に当初より早く中学校の寮に入れられる。
そして、民子は他家へと嫁がされてしまうが、政夫の名は一切出さずに暮らしていた。
だが、政夫が冬休みに実家に帰って来た時に、民子は流産した挙句に亡くなっていた事。そして、民子は胸の上に政夫から貰った手紙と竜胆の花を携えていたと、政夫は泣いて詫びる母親から聞かされるのである・・。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・一言で言えば、民子を演じた少女の切ない表情が、観ていて可哀想すぎる作品である。当時の風習からか、年上の女性が年下の男性と恋をする事が好ましく思われていなかった事。
そして、民子が政夫の従姉であった事も、関係しているのだろう。
・今でもそうなのかもしれないが、民子と政夫とが一緒に作業をしているだけで、周りから囃し立てられる。
けれども、二人とも好いていたために、気にはならなかったのであろう。
・悲しいのは、世間体を気にして二人の仲を割こうと進言する嫂の姿であり、それを受け入れる政夫の母親の決断である。
・更に言えば、他家に嫁ぐことを強要され、最初は泣いて拒否していた民子が最後は意を決したように承諾する姿である。
民子の姿が、健気過ぎて、涙が出そうになる。
<今作は、そのような悲恋の話を、老いた政夫(笠智衆)が、楕円形のスクリーンを用いて、和歌で心情を綴る映像手法も斬新であり、悲恋の物語を品性高く描き出している作品なのである。>
いちばん泣いた映画
今まででいちばん泣いた映画かも知れません。信州がロケ地らしいけど、今はなき日本の田舎の原風景があり、その面でもノスタルジィを駆りたてます。私の拙い言葉では上手く表現できないので、映画評論家の故荻昌弘氏の言葉の一部を引用させていただきます。
「映画撮影当時まだまだ生き残っていた"古きよき日本"が、今はもう跡かたもなく消え失せたものとしてまざまざと実感され、その愛惜感と、映画じしんがうたう明治のロマンへの惜別感とが心理的に二重焼きとなって、ノスタルジーの密度がたえがたいまでに濃く深く私たちの胸へ迫ってくる。」
この時笠智衆は50歳位、この映画を私が初めて観たのが大学生の時で、笠智衆がかなりのおじいさんに映った。今はその時の笠智衆よりはるかに歳をとってしまった。自分はまだ若いと思っているので、複雑な気分だ。
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