「それほどの手練れ…惜しいが、死ぬ!」眠狂四郎円月斬り kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
それほどの手練れ…惜しいが、死ぬ!
WOWOWの市川雷蔵没後50年「眠狂四郎」全12作品一挙放送…で観賞。
シリーズ第3作。
三番手の監督は安田公儀。
1作目に回帰するような様式美と色気に、バラエティーに富んだ敵と戦う2作目の活劇性を備え、燃え盛る橋の上での死闘スペクタクルが加わっている。
貧しい人夫の太十(丸井太郎)は、飢饉と年貢に苦しめられて飢え死にしそうだと言うわりに、太っている!
丸井太郎は、この数年後テレビドラマに出演して人気を得るが、五社協定に抵触したことで大映から干され、自殺に至るという悲劇が待っている。(余談)
またまた、狂四郎は可哀想な太十たちに肩入れし、将軍家斉の妾の子である片桐高之(成田純一郎)の凶行に立ちはだかる。
前作「勝負」の高姫も家斉の妾の子だった。そして、高姫の情夫で手裏剣使いの浪人を演じていたのが成田純一郎だ。
今回は、片桐高之とその配下たちの物量との戦いがクライマックスだが、
武士の誇りを捨てずストイックに浪人生活を送っている剣客・寄居勘兵衛(植村謙二郎)との剣豪合いまみえる戦い、
花札を手裏剣として使う流刑人・伴蔵(伊達三郎)との意表を突いた戦いと、
色違いの戦いで飽きさせない。
特筆すべきは、石段の場面だ。
シネマスコープの横長画面の中に、長い石段を縦に撮る大胆な構図。
3回ある石段の場面の2回目では暴漢たちとの戦いかあり、狂四郎を見せずカメラを動かして狂四郎の動きを表現するあっぱれな演出。
お色気パートは、狂四郎が身を寄せる茶屋の女・おきた(浜田ゆう子)と、片桐高之が惚れている商人山崎屋の娘・小波(東 京子)の二人が担当。
おきたは、夫が流刑を待つ囚人で既に気持ちがが冷めている。
その寂しさもあって、狂四郎への恋慕は募る一方だ。
もう、そのしなだれ様といったら…
「言わないで。今更わたし、貞女だなんて言われなくてもいいの。わかってるくせにっ!」
浜田ゆう子の仕草、所作がいちいち色っぽい。
小波は、片桐高之が将軍を継ぐと信じて寄り添っているが、まだ体を許していない。
なのに、狂四郎に犯されるという理不尽に合う。
「町人の女が天下を望むなど、だいそれたことと?…あたしには容易いこと!」
「お前を奪う!」
「きゃあ〜っ」
……う〜ん、シュールな展開。
着物を刀で斬って剥ぎ取り、小波の背中が露になるというThat's 時代劇な演出。
この時、さっきまでの強気の表情から一変して、狂四郎を見上げる東 京子の征服された感が、よい。
女を犯してこそ眠狂四郎なのだが、犯されて女は狂四郎の虜になるという、見てるこっちは悔しいやら腹立たしいやら。
「わたくし、あの男に、眠狂四郎に肌を許しました!」
…犯されたのではなく、許したのでした。