「岡田茉莉子氏の目力と圧倒的な存在感はまさに女優、白眉です。」人間の証明 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
岡田茉莉子氏の目力と圧倒的な存在感はまさに女優、白眉です。
新文芸坐さんにて「完全版 最後の角川春樹」出版記念『日本映画変革の時代・スペクタクル』(2025年4月14日~24日)と題した特集上映。まず本日1本目は『人間の証明』。
『人間の証明』(1977年/132分/35mm)
「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね ええ、夏、碓氷から霧積へ行くみちで 渓谷へ落としたあの麦藁帽ですよ…」の台詞、渓谷に落ちていく麦わら帽子が今でも印象に残る本作。
刺殺された黒人青年ジョニー・ヘイワード(演:ジョー山中氏)の残した「キスミー」(=霧積)、「ストウハ」(=麦わら帽子)の言葉を手掛かりに捜査を進めていく展開は『砂の器』(1974)の東北訛り「カメダ」(=島根県亀嵩)との類似点もありますが、公開当時は日本映画史上初の本格的なニューヨークロケは今観ても大作感があり両作とも壮大な推理サスペンスとしても傑作ですね。
戦後の混沌とした時代を生き抜いた棟居刑事(演:松田優作氏)、ファッションデザイナー八杉恭子(演;岡田茉莉子氏)、ジョージ・ケネディ氏演じるニューヨーク警察署の刑事ケン・シュフタン(ジョージ・ケネディ氏)の3人の数奇な巡り合わせのサイドストーリー、因果応報な展開も実に良いですね。
三船敏郎氏、鶴田浩二氏の大物俳優、野性味溢れる若き松田優作氏にも目を奪われますが、特に地位や名誉、そして母性に葛藤する岡田茉莉子氏の目力と圧倒的な存在感はまさに女優、白眉です。
そしてジョー山中氏が歌い上げる伸びやかなテーマ曲。
霧積の渓谷に麦わら帽子が落ちていく絶妙なタイミングのインサート、これほど作品にマッチする映画音楽もなかなかないですね。さすが大野雄二氏です。
この時期の角川映画は実に豪華で贅沢、何度も観ても面白いですね。