劇場公開日 1961年1月28日

「ハッキリ言って日本映画の最高到達点だと思います」人間の條件 完結篇 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ハッキリ言って日本映画の最高到達点だと思います

2019年11月3日
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鑑賞方法:DVD/BD

日本映画でこれほど壮絶なものを観たことはありません
圧倒的な感動というのも陳腐に過ぎるような震えるものがあります

これこそ真の反戦映画です

空想的な平和主義や、社会主義やソ連や共産主義中国を盲目的に礼賛するような考え方には冷水を浴びせるような、厳しい現実を突きつけます
ソ連の社会主義体制に唯我独尊を感じるとまで主人公に批判させています

ですから左翼の方々には受けが悪く、都合が悪いのかこれ程の名作でありながら正当な高い評価を与えられていないと思います

ハッキリ言って日本映画の最高到達点だと思います

本作は全6部で構成されDVDも6枚あります
映画では2部づつ3回に分けて上映されたとのことです
全部で9時間半にも及ぶ空前の超大作です
第1~2部は満州の鉱山における日本人が中国人を使役する実態を
第3~4部は軍隊生活についての実際と1945年8月9日のソ連の満州侵攻を
第5~6部は完結編と称され、敗残兵と日本人避難民に何が起こったのかと、ソ連の捕虜収容所での実態を主に描きます

描かれてある実態がどこまで真実であるのかはわかりません、もちろん映画ですから誇張もあるでしょう、しかし斜めに構えた醒めた視線で観ても左翼思想的な思惑によって恣意的に歪められていると思うことは皆無です
そのような安っぽい薄っぺらなものとは次元を画しています

主人公の梶と共に、私達はこの9時間半をかけて、戦争の現実の前に、第1部~4部での彼のヒューマニズムや社会主義に対する理想が如何に甘くナイーブなものであったかを、鼻先にまで現実を突き付け、観たくない現実を目をこじ開けさせてでも見せて、完膚無きまで叩き潰して、木っ端微塵に粉砕してしまうのです

それ故、第6部まで全編を観なければ本作の真のテーマはおろか、意義や意味は絶対に伝わりませんし、分かることもありません
第1部~2部だけを観ても、それは観たことには成っていません
ほんの入口にしかすぎません
それだけで観た気になって本作を語られても困ります
全6部までを観て初めてわかることなのです

全6部、9時間半を観るのは大変です
しかしこれを観通した時に得られる感動は巨大なものがあります

仲代達也の鬼気迫る演技は壮絶を極めています
圧倒的なスケール感とスペクタクルは日本映画の域を遥かに超えているものです

新珠三千代が演じる主人公の妻美千子の運命は、主人公の妄想として、ソ連兵達がレイプしようと抵抗する彼女を引き摺って連れ去るシーンと、高峰秀子が演じる年格好が同じ美しい中年女性の経験が、美千子の運命を暗示しています

これ程の映画は世界的にもそう無いと思います

リアリズムは映画だけでなく、平和と反戦について考えることにまでそれを要求するのです

自己と愛する人の生命がかかっているのですから
どこまでリアリズムであっても足りません

徹底的にリアリズムであるべきです
戦争の悲惨さを引き起こさないためには、一切の希望的な考えや期待や理想などは甘いことなのです
愛する人を危険にさらすことは、排除するべきなのです
その上でのヒューマニズムです
それが人間の條件なのです

でなければソ連侵攻の前に日本軍が敗れた時、地獄の様相を示す本作で描かれる満州の状況が、そのまま21世紀の日本において起こり得るのです

お花畑な空理空論で反戦や平和を語るものは、本作で主人公の梶が制裁を加える人物と同じです

そのような人々に騙され無いようにするためにも、本作全6部を観ることに9時間半の時間を費やすることは意義も意味もあることだと思います

あき240