「後からじんわりと来る映画」ニンゲン合格 yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
後からじんわりと来る映画
最初見終わったときは、「何だ、この映画?」と感じた。
しかし、振り返って色々考えてみると、かなり奥深い映画だった。
10年植物状態だった少年が目覚めて、家族との絆を何とか取り戻そうとする。
キーワードは「失われた10年」って言葉。
この作品が作られたのは1998年。
まさにバブルが終わり、「失われた10年」とか言われてた時代だ。
団塊ジュニア世代の自分としては「就職氷河期世代」などとまとめられる時代でもある。当時は実感してなかったけど。
主人公の名前が「豊(ゆたか)」なのも暗喩だろう。
失われたバブルよ、もう一度と、令和になって、あれから30年経った今でもその過去の幻想(記憶)にしがみ付いている人間がいることに驚く。
14歳で植物状態になったのも暗喩っぽい。中二の歳だ。
まさに「中二病」のように、ファンタジーの世界に浸り、現実を見ない大人たちを揶揄しているみたい。
ただ、この設定はおまけ程度のものかな?
メインストーリーは家族再生だと思う。
西島秀俊という俳優は今の大人のイメージしかなかったけど、こんな若い時代から黒沢清映画に出てたのか。
最近になって黒沢清映画を観始めた自分としては、そこが結構新鮮。良い演技だな。
少年のような、青年のような、難しい主人公の役をうまく演じている。
作品全体に漂う無機質感は「夢」をイメージしてるのかも。
なんか、フワフワした不思議な雰囲気がずっと漂ってる。そういえば「CURE」にもそんなシーンがあった。
存在が「幽霊」っぽいとも言える。
それが最後の言葉にも現れている。
「俺は存在してたのかな?」
少年の望みは一瞬は叶ったが、彼の家族がもう一度集まることはないのだろう。
それでも良い、というかそれで良いのだと思う。一瞬は叶ったので。
しかし、10年植物状態って設定は不思議な味わいがあるな。
タイムリープに近いけど、ただのタイムトラベルってわけじゃない。その間、彼はたしかに存在していたわけだから。
彼の存在に影響を受けて彼の家族は変わっていったのだろうし。大杉漣が演じる加害者も同様に。
色々考えたら、また時々観返してみようと思えた作品。