劇場公開日 1956年12月26日

「潜水艦内のセットが見事」人間魚雷出撃す 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5潜水艦内のセットが見事

2021年6月30日
PCから投稿

神風特攻隊と並ぶ非人道的な人間兵器、回天魚雷を描いた作品だ。本作は、アメリカの戦後軍事裁判のシーンから始まるのだが、回天魚雷と載せて潜水艦、伊58号の艦長の証言から証言台に立っている。その後、米国メディアに囲まれ、伊58が撃沈した船が、原発を運んだインディアナポリス号であったことへの質問がある。もしインディアナポリス号の往路で撃沈できていたら、広島と長崎の被害はなかったかもしれない、と観客に思わせる。しかし、本作は人の命を武器として使う回天魚雷を題材にしている。一方に無辜の市民の大勢の命があり、もう一方には命を武器にさせられた若者がいるという構図を見せる。どちらも悲劇的で、責任者は常に命の選択を迫られていた。
潜水艦内のセットのリアリティが素晴らしい。絶妙に狭苦しく、酸素欠乏の時の対処法など、なかなか他の映画で描かれないような描写がある。全編、淡々と描写しているのがかえって生々しさを感じさせる。

杉本穂高