「製作費15億円!『乃木大将と日露戦争』〜東映のマーケティング戦略?!」二百三高地 Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
製作費15億円!『乃木大将と日露戦争』〜東映のマーケティング戦略?!
1980年公開、配給・東映。
【監督】:舛田利雄
【脚本】:笠原和夫
【監修】:瀬島龍三、原四郎、千早正隆
主な配役
【乃木希典 第3軍司令官】:仲代達矢
【明治天皇】:三船敏郎
【児玉源太郎 満州軍総参謀長】:丹波哲郎
【大山巌 満州軍総司令官】:野口元夫
【伊藤博文 貴族院議長】:森繁久彌
【山縣有朋 陸軍参謀総長】:神山繁
ほかに、
あおい輝彦、夏目雅子、新沼謙治、湯原昌幸、佐藤允、永島敏行、稲葉義男、新克利、天知茂、平田昭彦、若林豪、愛川欽也、野際陽子、赤木春恵、北林早苗、村井国夫、松尾嘉代
1.監修者に名を連ねた元軍人たちと戦争賛美批判
◆瀬島龍三(帝国陸軍中佐→シベリア抑留→伊藤忠商事会長)
◆原四郎(帝国陸軍中佐→航空自衛隊→読売新聞副社長)
◆千早正隆(帝国海軍中佐→東京ニュース通信社常務)
瀬島龍三は謎に包まれた人だ。
シベリア抑留経験者で伊藤忠商事の会長になり、一方で、ソ連のスパイとも言われている。
そういう帝国軍人、
しかも、佐官クラスが監修に名を連ねていれば、
「右寄り」批判は避けられない。
これは、東映(岡田茂)のマーケティングだと思う。
話題作り、右も左もみんな観に来い!、ということだろう。
製作費15億円、
興行収入18億円、薄氷の勝利か。
2.山本直純とさだまさし
音楽監督は、山本直純。
東京藝術大学出身、小澤征爾と新日フィルを創設した。
昭和を代表する作曲家・指揮者のひとりだが、
「大衆」に寄り添った人だった。CMにも出たし、テレビ露出も多かった。
『男はつらいよ』の主題歌を作曲した。
山本直純がさだまさしを起用した。
山本直純らしい。
武満徹や芥川也寸志ならそうはしない。
私は、グレープ解散した直後のアルバム『帰去来』からのさだまさしファンで、
コンサートにも行ったし、
ソロ活動後10年くらいは、全アルバム買っていた。
だが、ファンの自分からしても、
戦記映画とさだまさしの不整合が気になって仕方ない。
Intermission(中休み)の直前に『防人の詩』。
後半に『聖夜』。
3.乃木希典
企画段階の仮タイトルは、
『乃木大将と日露戦争』。
乃木大将を前面に出しても客を呼べない、
ということで、改題された。
私の祖母は、
「敵の将軍ステッセル 乃木大将と会見の 所はいずこ 水師営」
という歌(『水師営の会見』)をいつも口ずさんでいた。
乃木希典は、明治生まれの人たちには英雄だった。
本作での乃木希典は、史実に忠実に描こうとしたのだろうが、結果的には、
乃木希典も、
児玉源太郎も、
大山巌も、
伊藤博文も、
明治天皇も、
評価の難しい描き方に終始した。
行動は再現されているが、思考がわかりにくい。
4.夏目雅子とあおい輝彦(小賀中尉)
この2人をキャスティングしておけば、
若い人も観に来るだろう、
くらいの安直さを感じる。
この2人をはじめ架空の個性的兵士を登場させ、
◆好きな国(ロシア)と戦う悲しみ
◆愛する人と離れ戦場に向かう悲しみ
◆小賀中尉の最期は戦争自体の悲しみ
◆徴兵された庶民が死に行く悲しみ
を訴えようとしたが、必要条件ではなかった。
5.まとめ
私はCGに頼らない、
昭和期の戦争映画が大好きなのだが、
本作は例外だ。
ひさしぶりに観たが、やはり、評価は変わらない。
戦闘シーンは迫力がある。
だが、185分に及ぶ大作なのに、
肝心のシナリオからメッセージを拾えない。
私の感受性が足りないのかもしれないが。
余談だが、
『日本のいちばん長い日(1967年)』で、昭和天皇の忠臣・阿南惟幾陸軍大臣を熱演した三船敏郎が、
13年を経た本作で明治天皇を演じていたことに感慨を覚えた。
☆2.0
