「伊藤の涙と児玉の涙」二百三高地 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
伊藤の涙と児玉の涙
序盤、森繁久彌演じる伊藤博文の開戦への決断が描かれる。「命を賭して」「ワシも全財産擲って」「最後の一人となっても」と熱い麗句がならぶ。
以前観たときは、この伊藤の姿勢にも感動したものだが、今回は、児玉源太郎がのちに戦場で流す涙とは性質が異なるものに思えた。
この間に、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んだり、伊藤の他の書物での論評などから、映画で描かれているのが稀代の人たらしであるように見えた。
児玉や乃木希典が流す涙は、自らの重責に押し潰される人間の顔に流れ落ちる。伊藤のそれは、人の気持ちを動かすために頬を伝う。
実際の伊藤の心中など誰も知るよしもない。ただ、そのような彼の偉大なるインチキ野郎ぶりを、これまた本人がどのようなつもりで演じているのか、推し量りかねる森繁の怪演である。
森繁、丹波、仲代。怪優たちを観るだけでも、価値がある一本だ。
子供たちには、今をときめくアイドルグループは、この乃木希典こそがルーツであると伝えておいた。
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