劇場公開日 1980年8月2日

「伊藤の涙と児玉の涙」二百三高地 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.5伊藤の涙と児玉の涙

2019年7月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

興奮

 序盤、森繁久彌演じる伊藤博文の開戦への決断が描かれる。「命を賭して」「ワシも全財産擲って」「最後の一人となっても」と熱い麗句がならぶ。
 以前観たときは、この伊藤の姿勢にも感動したものだが、今回は、児玉源太郎がのちに戦場で流す涙とは性質が異なるものに思えた。
 この間に、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んだり、伊藤の他の書物での論評などから、映画で描かれているのが稀代の人たらしであるように見えた。
 児玉や乃木希典が流す涙は、自らの重責に押し潰される人間の顔に流れ落ちる。伊藤のそれは、人の気持ちを動かすために頬を伝う。
 実際の伊藤の心中など誰も知るよしもない。ただ、そのような彼の偉大なるインチキ野郎ぶりを、これまた本人がどのようなつもりで演じているのか、推し量りかねる森繁の怪演である。
 森繁、丹波、仲代。怪優たちを観るだけでも、価値がある一本だ。
 子供たちには、今をときめくアイドルグループは、この乃木希典こそがルーツであると伝えておいた。

佐分 利信