劇場公開日 1968年10月12日

「不条理」肉弾(1968) ゆり。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 不条理

2025年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

戦争は只々多くの犠牲を払うだけで何も生み出さない。あいつはその馬鹿馬鹿しさに気付いていたが、彼一人の力では抗う事は出来ず、馬鹿馬鹿しい波にのまれていくしかない。自らも特攻を命じられて、せめてそれに意味を見い出そうとするが…

全体を通して乾いた笑いがあり、権威に対して徹底的に皮肉っています。あいつが副隊長と話しながら、壊れたレコードを思い浮かべたり、さりげない嫌味をちょこちょこ入れるのも面白かったです。シュールな結末も良かった。少ない登場人物、予算でも戦争の不条理が伝わりました。こんな形で描くやり方もあるんだなと思いました。

とても知的で良い作品だと思います。
大谷直子さんが美しく、北林谷栄さんは品がありました。
ただ、大谷さんとの比較の為なんでしょうが、女郎屋の女たちをみんな化け物だ、というセリフは、戦争未亡人かもしれない彼女たちの背景を考えると、笑えませんでした。戦時中の女性が老けていたのか、本当におばさんだったのかは判別できませんでしたが、女給やお針子や飲み屋の女将や製造業、こんな職業に就いてさえいれば、化け物とは言われなかったでしょう。
看護婦たちが男どもに襲われて嬌声をあげるシーンも意図が分からなくてあまり好きではありません。

昔の映画なので、軍人の言葉が早口だし用語も一回聞いただけでは意味が分からなかったりするところもありました。最近の戦争映画の軍人の話し方がなってないという意見もありますが、理解出来なくては伝わらないから、今の時代に合った分かり易い戦争映画も必要なんだなと思います。

寺田農さんは、ヤな奴を演じたのしか観たことが無いのに、なぜか好きな俳優です。
本作を観て分かりました。知性を感じる落ち着いた話し方を気に入っていたんだろうと思います。

<追記>
余韻が凄いです。「立派に死ね」と言われ、軍隊では理不尽過ぎる扱いを受け、それでも「大した事はない、大した事はない」と自分に言い聞かせるように何度も言うあいつ。
後半では言わなくなる。守るべきものが出来、でもそれを失って、諦念から怒りに変わっていったんだろうと思います。

看護婦たちが襲われるシーンは、漁師と表現されている男たちは、もしかしたら進駐軍を意味しているのかもしれません。あるいは、大陸で敗戦後、日本人が助かる為に差し出された女性たちを表現したのかもしれません。いずれにしろ、ひどい目に遭うのは弱いものたちです。敢えて悲惨な感じにしていないのかもしれない。そう思ったので、評価を★4に変えました。

ゆり。
りかさんのコメント
2025年9月4日

共感ありがとうございます♪

何回か観ているうちに寺田農さんが亡くなってしまわれました。若い頃に出演されてご高齢とはなってられましたが、生々しい悲惨さを伝えていくのがだんだんと難しくなっていきますね。

りか
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