「山田映画の原点」二階の他人 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
山田映画の原点
新築夫婦と二階に住む不可思議な下宿人たちとのやりとりを時におかしく、時に切なく描き出した山田洋次の処女作。喜劇と悲劇の相互嵌入的な物語構成はいかにも山田洋次らしい。また下宿という「ウチ」と「ソト」の境界がほどよく緩解している空間を舞台にしたのも上手い。
夫婦の家に時折転がり込んでくる夫の母親がなんともいい味を出していた。家賃を払わない下宿人カップルに「飯抜き」の罰を講じる夫婦に対して、彼女が「兵糧攻めなんてやり口が汚いよ」と悪態をつくシーンが可笑しかった。あとは「警察がこんなこと言うもんじゃないけど…」と一応弁明しながら下宿人カップルに対する夫婦の私刑を是認する警官もよかった。
ものごとの輪郭線が適度にぼやけている空間というのは心地がいい。癖の強い下宿人を連続して引き当ててしまった夫婦が、それでも「まあ次は何とかなるさ」と開き直れるのは、彼らが他者に対して「かくあるべし」といった教条主義的な固定観念を抱いていないからだ。人間っていうものは杓子定規にゃいかんけど、裏を返せばその都度都度でどうとでも折り合っていけるってことだよな、というポジティブな諦観とでもいうべきか。
私がなんだかんだで山田洋次を好きなのは、私自身が山田作品に出てくる人々のように大雑把で楽天的な性格だからなのかもしれない。それでうまくいく世界であってほしいと願うばかりだ。
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