「見ごたえがある」楢山節考 山茶花Qさんの映画レビュー(感想・評価)
見ごたえがある
容赦のない現実対、その全てを呑み下して我が身の結末を雄々しくたぐりよせるおりんの気迫との渡り合い、それを自然ぐるみ重厚に描き出す撮影、坂本スミ子の好演、すべて見ごたえがある。
主題は言うまでもなく姥捨てで、その最終場面へ向けてすべてが収束していくが、白眉たる真の見どころはアマヤ家族が楢山さまに謝らされる段だ。この恐ろしさのためにDVDを購入した。
最終場面も胸に焼き付く。おりんを山に置いて辰平が戻ってみると、息子ケサやんの新しい嫁がおりんの綿入れをさっそく身に着けている。見ると、心からおりんに添いおりんのお山行きを嘆いた妻のタマやんの腰にも、やっぱりおりんの帯が巻きついている。主題に溺れず見せるところは最後の最後まできっちり見せてくれる。
中で唯一父利平の亡霊の出現だけが目障りだ。これだけの名画をぶち壊しにしてしまいかねない子供だましのオカルト的挿話に首を傾げる。
原作にもなかったはずだ。よく覚えていないが、仮にあったとしても文学とはほど遠いこんな幼稚なアレンジではなかっただろう。
善良いっぽうに描かれている辰平にも闇の部分があったということならそれはそれでいいし、その闇もおりんが一身に引き受けてお山へもっていく、それもさらにいい。また心に闇ある人間だからこそ、習わしとはいえ母親を捨てることの唐突感も和らぐ。しかも村の掟である姥捨てを敢行できなかった利平の“軟弱さ”への反感からとなれば、母捨て行為はもちろん父親殺しさえもが正当化される。すべてがよくてきている。ただそれを安直なオカルトでまとめてしまったのだけが残念だ。
あるいは副旋律補強の意図からか? だがその点なら、あんな通俗漫画を付け足すまでもなく不足なく作られている。アマヤの1件がそうだし、無しでは済まない性問題の見事な処理、そして唸ってしまうのが、瀕死の床についていた清川虹子バアサンを白萩様(白いごはん)1杯でけろり快癒させて明るさを灯してみせる味付け(原作にあっただろうか?)。これ以上何も必要ないほど盛りだくさんだ。
本当にあのオカルト漫画部分だけがわからない。
山中でおりんを一瞬消してみせる幻覚シーンもある。あんな意味不明なものを入れたのも、つまらないオカルトを組み込んでしまったがゆえのつじつま合わせにすぎないと見る。辰平の願望を描いて見せたとするには幼稚安直すぎる。
作品の名誉のためにそっと忘れるべき謎というしかないか。