名もなく貧しく美しくのレビュー・感想・評価
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生卵
20年ほど前にVHSテープに録画して見ようとしたけど、2時間超えのため途中で切れてしまい、結末を知らなかった。それでも1961年作品の中ではダントツの名作!(その他作品は知らない)だと思っていた。
最初の嫁ぎ先竜光寺では空襲に遭い、何とか生き残ったが夫が病死し離縁させられた秋子(高峰秀子)。聾唖学校の同窓会で出会った片山道夫(小林桂樹)と再婚し、赤ん坊を授かるものの泥棒に入られ、その晩子どもは亡くなってしまう。夫婦はともに耳が聞えないために苦難の連続。次に産まれた子も両親がろう者であるためイジメにあったり、出所した弟のためにさらなる苦労を強いられる。
倖せって何だっけ?健常者であるがために知らないことが多い。それでも健気に戦後を生きていく家族。おばあちゃんが居てくれたおかげで助かったところも多いけど、自分たちの幸せが見つかれば他の人も幸せにしなければならないと、まるで聖人のような台詞(手話)も飛び交うのです。特に、消息を絶っていた姉の信子も銀座のホステスとして経済的に成功したが本当に幸せなのか?といったところに彼ら家族と対比させている。健常者だった息子一郎も成長するにつれ良い子になっていき、『CODA』を彷彿させてくれた。
最も印象的なシーンは、家を出て行こうとする秋子と追いかける道夫。電車(連結部分を行き来できない)の中で窓越しに手話を交わすところは神々しささえ覚えてしまった。そして、生き別れとなっていたアキラが突然訪ねてきて・・・もう最後は涙なしでは見られない。
ちなみに1961年のキネ旬ベストテン(日本映画)
1位:不良少年
2位:用心棒
3位:永遠の人
4位:人間の条件完結編
5位:名もなく貧しく美しく
6位:反逆児
7位:あれが港の灯だ
8位:はだかっ子
9位:飼育
10位:黒い十人の女
素敵な手話
幼い頃病気により聾になった秋子は、寺に嫁ぐ。空襲下で保護した孤児アキラを寺に連れ帰るが、彼は施設に入れられてしまう。その後、夫の急死で彼女は実家に戻され、優しく受け入れる母だったが、姉弟はお荷物扱い。しかし、聾の道夫と知り合い結婚、子供も授かるが。
手話のシーンで、字幕に訳さないところがあります。どんな会話だろ、と想像されるところが良いです。高架下の喧騒や、列車の窓越しでの手話による熱い会話が素敵です。ただ秋子の結末に、不満。アキラと再会で良いじゃないか。
60年以上前の作品。未だにTVで見かける草笛光子が、高峰秀子の姉の役。なんか無理がある、と調べたら草笛の方が九つも下。妹役でいいのでは。
必見(閲覧注意)
冒頭の空襲シーンの映像と音響で一気に引き込まれました。正直の所、ストーリーやテーマ云々より、高峰秀子に見惚れていました。小林桂樹も素晴らしく、美しさを引き立てていました。子どもの描写にも心をくすぐられました。
電車のシーンは言わずもがな、卒業式を窓越しに見守るショットも美しく、はああと溜め息が漏れました。そこへいきなり加山雄三が現れたんです…「えっ!」と固まっていると、誰もが知るあの笑顔。報せを聞き、駆け出すデコちゃん。ん、既視感が…。その後のことは良く覚えていません。
美しすぎる宗教的寓話、かと思いきや…
聾唖と貧困の二重苦に喘ぎながらもなんとか人並みの生活を送ろうとする家族。そこへ次から次へと受難が降りかかる。戦争、第一子の死、職場の焼失、弟の暴虐、そして妻の死。まさにアブラハム宗教的な「受難」としか形容できない不条理が家族のささやかな生活を意味もなく脅かす。
それでもこの家族は悪の道へと堕落したり自分一人だけの世界に自閉したりせず、神が与え給うた運命の中で再生の道を探り続ける。
苦しい生活から逃れようと電車に飛び乗った妻を夫がガラス越しに説得するシーンはこの上なく美しい。それまで夫婦の欠如性を責めるかのように忙しなく鳴り響いていた街のノイズがすべて止み、その真空の間を二人の手話が豊かに交通する。この瞬間、二人はほんの少しではあるけれど、健常者たちの構築した「世界」から自分自身を取り戻すことができたのだ。
しかしとにかく物語全体が潔白なる信仰意識に包まれており、黒澤や小津や川島や成瀬の筆致に慣れ親しんだ身からすると、いまいち「邦画」を見ているという感じがしなかった。清濁併呑のリアリズムを活写しているというよりは、汚濁こそが清いのだという宗教的寓話だったな〜という印象。これを見る直前に岡本喜八を見ていたから、というものあると思うけど…
かと思いきや、最後の最後で息子が聾唖の両親について「聾唖でなかったらもっとよかった」と感慨を述べるシーンが挿入される。確かに今も幸せではあるけれど、二人の耳が聞こえていたらもっと幸せだっただろうな、と彼は言ってみせるのだ。信仰が盲信へと変転しかけたまさにその直前のタイミングでこういうセリフを入れるのはかなり巧い。清廉潔白すぎるがゆえに現実から遊離していた物語に、この一言が確かな回路を切り開いたといえる。
全体を通してショットが非常に凝っていた。動物園の檻の格子越しに二人の聾唖を映し出すことで二人の心の距離の遠近を表現したり、登場人物の移動に合わせてカメラを右へ左へと忙しなく水平移動させたり、視覚に強く刻み込まれる名ショットが多かった。
現実を受け入れ真摯に生きる夫婦とその家族に心打たれた
初回
2021/06/06 CS/BS鑑賞
高峰秀子、小林佳樹、母親の原泉。この三人の俳優の心象を滲ませる表情や言葉にとても感動した。互いに幸せになろう、普通の人より頑張ろうと辛くても力を合わせて生きおうとする二人。そしてそれを力強く支える母。
「騙されても損しても、こうやって皆無事にご飯いただければいいじゃないか。」そのひた向きさ、他者を責めることなく、真の思いやりと心の強さ。辛いこと貧しさをすべてを受け入れながらも、しっかりと家族で支え合うこの映画は、現在の我々にも何を糧に生きていくべきなのかを教えてくれる。
2回目
2023/12/27 映像文化ライブラリーにて鑑賞
映画は戦時中の大空襲で逃げまどうところから始まる。聾唖の女性・秋子(高峰秀子)とのちに結婚する同じく聾唖の道夫(小林桂樹)。戦後の貧しい環境の中、子どもも授かるが聾唖であるが故のさまざまな困難を乗り越え、二人が互いを認め合い子どもと成長していく慎ましやかな家庭の十数年の物語。手話での会話のため、サイレント映画のように字幕が出る。高峰秀子は言葉が少し出せるがそれはギリギリ絞り出しているよう。この夫婦二人の演技がとても心を打つ。
母親役のたま(原泉)は自分が苦労したことから子を持つことを反対するが、一緒に暮らすようになり何とか生活が安定してくる。子も小学生になると両親が聾唖であることでいじめを受け、特に母親に反発する。秋子の姉弟が酷い人間として登場し、彼らに裏切られ、ものを盗まれても、母親は「仕方がないじゃないか。また頑張ればいい、また買えばいい。こうして皆無事にいられるだけでいいじゃないか。」と明るく皆を励ます。
この映画の良さは、映画評論家の佐藤忠男氏が書いているように「手話で二人は世間一般の夫婦が、むしろ照れたり、面倒くさがったりして滅多にやらないような会話を、懸命になってするのである。・・・愛情をはっきり伝えるため、一生懸命、言葉を捕まえようとする努力こそが、世間一般の人々より、ずっとずっと美しく、生き生きとさせているのである。」ということにあるのかもしれない。
この映画は、兵庫県新温泉町出身で、耳が不自由ながら日本画家、教育者として活躍した藤田威(たけし)さん(1917〜1972)夫婦がモデルになったという。その後、島根県浜田市で暮らす一家は映画公開の3年前に、雑誌『暮(くら)しの手帖(てちょう)』に取り上げられた。創刊者の花森安治さんが取材、執筆した企画「ある日本人の暮し」。それを初の監督作品として脚本も手掛けた- 松山善三氏がこれほどまでに感動的な映画にして昭和36年まだ戦後が残る日本人に大切なものは何かを示してくれたのだと思う。
名作中の名作
名作中の名作だと思った。高峰秀子と小林桂樹の手話などの熱演も雰囲気も、男女愛、夫婦愛、家族愛などを原泉の母と子役も含めて、辛い人生をあたたかくみせていく。平成以降の日本人が忘れてしまった面を残しているような映画だった。
貧しいが美しい。いや、逆接を使うべきではない。タイトル通り貧しく美...
貧しいが美しい。いや、逆接を使うべきではない。タイトル通り貧しく美しい。列車で夫が妻を全力で引き止めるシーンは聾唖者でなければできない技である。
ひとつひとつの台詞に深みがあり、心清められる美しい作品。俳優陣の演...
ひとつひとつの台詞に深みがあり、心清められる美しい作品。俳優陣の演技も圧巻。高峰秀子が は美貌だけでなく昭和の名女優と謳われるだけの事がある。時間が経ってもその表情が思い出される。
これは衝撃的名作。 高峰秀子、圧巻の演技です。なんて素晴らしい女優...
これは衝撃的名作。
高峰秀子、圧巻の演技です。なんて素晴らしい女優さんなんだ!これ見るだけで価値あり。
聾唖者が貧しさや子育て、その他いくつもの試練を乗り越え、幸せな家庭を実感していく様を描く。その象徴、息子の卒業式は名作二十四の瞳を彷彿とさせる。
そして衝撃の結末。これは綺麗事ばかりが跋扈している現代では絶対に作り得ないだろう。事実、海外向けは別バージョンとなっているようだ。
「世間の人は私達に同情はしてくれても理解してはくれません」
「正直に言うと本当はお父さんやお母さんが聾唖者でなかったらもっと良かったと思います」
衝撃発言が多々出てきます。正直なんだと思います。
繰り返します。今ではあり得ぬ作品です。今作を見て、上っ面や綺麗事ではなく、正直にそして真剣に物事を考えられる自分でありたいと強く思いました。
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