「この映画の主題は明快」夏の庭 The Friends 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の主題は明快
この映画の主題は、都市では2世代を超えた家族の構成が難しくなってきていた当時「死」という概念を、具体的に子供たちに教えることにあった。それは、今に通じる課題。主人公は、朽ちてゆくような住宅で一人暮らしをする老人(三國連太郎)と、サッカー好きな6年生の男の子たち3人。神戸を舞台に、夏休みを含む、ひと夏のでき事が語られてゆく。
老人には人には言いにくい戦争中の過去があった。フィリピンの人たちには、大変、申し訳ないことをしたが、多くの日本兵もまた、特に戦争の末期、密林のジャングルの中で苦戦を強いられ、その多くが帰還できなかったことを、浅田次郎さんのエッセイなどで教えられ知っている。
男の子たちは、好奇心から死が近いと思われた老人に付きまとうが、やがて、草が生い茂る住宅の庭に入り込み、ほぼ勝手に草刈りをするあたりから、物語が動き始める。障子を張り替え、屋根を塗装し、ガラス戸を更新する。男の子の一人(関取と呼ばれていた)の奮闘でスイカを切り分けて楽しみ、終いに、草刈りのあとの庭をきれいにして、花の種を植える。不思議なことに、老人は、生活をするための費用は十分持っているようだったが、男の子たちは、わずかなヒントを辿って、老人の家族までたどり着く。
一番印象に残っているのは、庭にコスモスなど、夏から初秋の花々が咲き乱れるところ。私は、愛読している川本三郎さんの著書の中に時々出てくる、都会の空き地を想い出した。あれも、戦災の跡地と関係するのだろう。今は、もう見ないが。
私は、「飢餓海峡」以来、三國さんの演技には親しんでいるが、演技以外のところで様々なうわさがあり、避けていたこともあった。しかし、この映画の演技には、間然するところがない。
アサド兄弟の演奏するギター二重奏も、映画の背景とよくマッチしていた。エンディング・テーマの選択から考えて、相米慎二は、この映画を一人でも多くの子供たちに観てほしかったに違いない。この映画のような体験を経て、少年たちは、家族や社会について知り、やがて旅立ってゆくのだと思う。
秀作である。