「トキワ荘の漫画家の胎動が心地好くも静かに沸々と感じられる作品です。」トキワ荘の青春 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
トキワ荘の漫画家の胎動が心地好くも静かに沸々と感じられる作品です。
作品自体は知っていましたが、ちゃんと観た記憶が無いのと、改めて観たくなって鑑賞しました。
で、感想はと言うと、良いです♪
温かくて優しく。それでいて良い気分にさせてくれます。
流石、名匠 市川準監督が油が乗っていた時の作品。
「東京三部作」と称されるの中の一つであり、何処か小津安二郎作品の雰囲気も漂います。
藤子不二雄先生の「まんが道」を代表する伝説の「トキワ荘」の物語ですが、その中でトキワ荘のリーダー的存在の寺田ヒロオさんを主人公にしているのは珍しい。
まんが道では頼れるお兄さん的に描かれていて、ある程度美化と言うか脚色されている部分はあると思うんですが、それを貶める必要性は全く無く、藤子不二雄先生や石ノ森章太郎先生の目を通して見た寺田ヒロオと言う人物のイメージで良いと思います。
そんな頼れる寺田ヒロオさんが優しくも物静かに描かれていて、それでいて様々な才能の宝庫であったトキワ荘の面々との物語が描かれています。
トキワ荘に集まった若き漫画家志望者たちは、寺田ヒロオをリーダーに新漫画党を結成。だが、若き漫画家達は悩み苦しみもがきながら、漫画道を歩んで行きますが、その中でも徐々に売れる者、なかなか芽が出ない者、漫画の道を諦める、またトキワ荘を去る者と明暗が分かれていく。
早くから売れっ子漫画家となったのは石森章太郎(石ノ森章太郎)、藤子不二雄。
中々芽が出ないのは赤塚不二夫。
劇中にトキワ荘を去るのは森安直哉、鈴木伸一、そして寺田ヒロオ。
勿論、それぞれの漫画人生はその後も続くので、成功・失敗をこの時点で測る事は出来ないけど、それでもそれぞれの明暗が切ない。
トキワ荘の住人であった漫画家達は後の漫画界に多大な功績を残すビッグネームばかりで、その中でも寺田ヒロオさんは自身が理想とする「子供たちに理想を教える漫画」と商業主義に転換していく雑誌社との間に深く思い悩んでいきますが、早くも商業主義の漫画に見切りを付け、早々と筆を折り、その後も人と会わない俗世間との見切りはかなり伝説的でもあります。
実際の人物像を論議する事はありませんが、それでもトキワ荘物語を語る上で欠かせない人物であるのは間違いなしでそんなテラさんを本木雅弘さんが物静かに演じられています。
トキワ荘の住人以外でもよく語られるつのだじろう先生や水野英子先生なんかは有名ですが、面白いのはまんが道等では殆ど語られる事は無かった、つげ義春先生や棚下照生先生なんかの描写は物凄く興味深いです。
シュールリアリズム作品でカルト的人気の誇るつげ義春先生がトキワ荘で出入りしていたと言うのは知らなかったし、初期の青年漫画作品を書いていた棚下照生先生との交流は面白い。
また、石森章太郎さんのお姉さんと交際に近い交流があった描写は作品オリジナルかと思いますが、そういった描写も人間寺田ヒロオ像を膨らませているのが印象的です。
今から四半世紀前の作品なので当時は若手であっても今となってはとんでもないと言うかベテランや凄いキャスト陣。
寺田ヒロオ:本木雅弘、安孫子素雄:鈴木卓爾、藤本弘:阿部サダヲ、石森章太郎:さとうこうじ、赤塚不二夫:大森嘉之森安直哉:古田新太、鈴木伸一:生瀬勝久、つのだじろう:翁華栄、水野英子:松梨智子、手塚治虫:北村想、石森の姉:安部聡子、つげ義春:土屋良太、棚下照生:柳ユーレイ、藤本の母:桃井かおり、娼婦:内田春菊、編集者・丸山:きたろう、寺田の兄:時任三郎
と物凄い。
特に森安直哉役の古田新太さんが良い感じです♪
寺田ヒロオさんの繊細かつ静かな情熱が感じられ、また才能が開花する直前のトキワ荘の胎動が面白いんですよね。
現在の漫画の礎を気づいた先人達の青春物語が心地良く、邦画の名作の香りが心地好く漂う胸に染み渡る様に響く作品です。