「宮崎駿の偉業。その払暁。」どうぶつ宝島 KIDOLOHKENさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿の偉業。その払暁。
アイデア構成というわけのわからんポジションで20代の宮崎駿が参加している。何を担当したかは映画を見てみれば一目瞭然。この映画はまさしく宮崎駿カラーである。のみならずその後の宮崎駿の全てがここにあると言っても過言ではない。
映画中盤あたりの一つ一つのアイデアは今では完全にベタで全く面白くない。が、全体のストーリーがしっかりしているのでまあまあ生きて効いている。余計なエピソードをいれることなくテンポよく進んでいくので飽きる暇もない。そして中半にアクション的に盛り上がる部分があり、それが映画の成功を確保したように思う。そしてクライマックスでもう1度盛り上げるのに大成功している。ここでは崖のアイデアが実に生きている。
ヒロインの登場のタイミングとその後の絡みの妙、わき役の一人一人に至るまで活かされされている全体の絡みのうまさ。そして何よりも作品に若さとエネルギーがあり輝いている。古い映画ではあるが明らかに宮崎駿の傑作の一つに数えられるべき作品だと思う。
それから脚本で着目すべき部分をひとつだけ指摘してみたい。というのは、この映画には人間ドラマというものがほとんど入っていない点だ。普通、映画の中には何か内面に問題を抱えてる人物が出てきてきてそれが昇華されていく部分が見どころと言うかグッとくる部分になっている。なのにこの映画にはそれがない。それがないというのは脚本家目線で言うと非常に書きにくいということなのだ。主人公の悩みが昇華されていくという話は書きやすいのである。 それがないというのは脚本技術としては高等技術。それがないことによって全体が軽くなり子供たちが楽しめるようになり冒険の面白さがクローズアップされている。同じように人間ドラマが入っておらず活劇の面白さだけでみせている映画は例えば黒澤明の隠し砦の三悪人がある。映画監督なら誰でやってみたいと思う脚本と言えよう。
この作品は現代アニメとは違うコンセプトに基づいて絵が描かれており今見ると逆に斬新さを感じた。崖の下のポニョではこんな感じの作品を作りたかったのではないかと思う。しかし、作れなかった。簡単な構成、アイデアのようではあっても、この映画もまた、作ろうと意気込んでみても作れるレベルの作品ではないのだ。