劇場公開日 1975年7月12日

「肝心の大爆発シーンは、流石の出来映え 爆発の中野昭慶が渾身を込めた、爆発シーンの集大成で大いに見応えがある」東京湾炎上 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5肝心の大爆発シーンは、流石の出来映え 爆発の中野昭慶が渾身を込めた、爆発シーンの集大成で大いに見応えがある

2020年10月11日
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鑑賞方法:DVD/BD

東宝のパニック映画の系譜をまとめるとこうなる

日本沈没 1973年
ノストラダムスの大予言 1974年
東京湾炎上 1975年
地震列島 1980年
首都消失 1987年

毎年のように製作されていた東宝の戦争映画シリーズは1972年の海軍特別年少兵で終わった
しかし特撮部隊が活躍できる作品は、実質的には1969年の日本海大海戦で終わっていたのかも知れない
1970年軍閥、1971年沖縄決戦、1972年海軍特別年少兵では、特撮部隊は必要とされなかったのだ
過去作品の戦闘シーンを使い回してことが足りていたし、特撮技術も進歩はなく、取り直してみたところで過去作品の映像と変わり映えしない結果になるのは明白だった

東宝の特撮部隊は、戦争映画と怪獣映画の大きくわけて二つの路線があったのだが、その一方が無くなってしまったわけだ
怪獣映画もブームは過ぎ去った
それでもなんとか怪獣映画は1974年のゴジラ対メカゴジラまで持ちこたえた

動員数もどんどん低下し、製作予算もどんどん低下する一方
特撮に冬の時代が訪れたと言ってよい

そこに救世主が現れた
折からのパニック映画の到来だ
1972年のポセイドン・アドベンチャーが切拓いた新ジャンルで、その後何作も作られてどれも良くお客がはいった

これなら特撮が大活躍できる
特に東宝特撮が得意とする大破壊や大爆発が目玉になるのだから
では洋画の二番煎じでない日本独自のパニック映画とは何か?それが必要だ

そこに日本沈没という空前絶後のウルトラ級のベストセラーが現れたのだから、これ以上のチャンスはない!
円谷英二の亡き後をついだ中野特技監督は、潤沢な予算も得て、1973年の日本沈没の映画化において大いに腕を振るった
東宝特撮此処に在り!東宝特撮は健在なり!
それを世界に示してくれたのだ

その翌年の1974年には、今度はノストラダムスの大予言というこれまた大ベストセラーがでた
これもまた日本独自のコンテンツでありながら、輸出まで期待できる
これも特撮部隊は大いに活躍して興行成績も良かった
近年鑑賞が大変困難なのが残念

では、その後は?

これが続かない
本作はそんな中で製作された作品だ

東京湾一面が炎上し、首都圏2000万人に危機が迫る!
確かに恐ろしいパニックだ
しかし小粒感は免れない
それは海外でも同じで、パニック映画の弱点は、パニックのネタがすぐにネタ切れになってしまうことなのだ

1976年のパニックインスタジアム、1977年のブラックサンデーは奇しくも同じくテロリストにパニックの原因を求めている

だから、本作の原作選定は間違ってはいない
ブラックサンデーなどは巨大な飛行船に題材を求めたのは、本作撮影の巨大タンカーが与えた影響かも知れない

しかし映画化する能力に不足があったのだ
脚本が圧倒的に良くない
もっともっと面白く出来たはず
翻案のレベルが低過ぎる
テロリストの主義主張など、そんなものはどうでも良い
ヒッチコックの言うマクガフィンなのだから
そして主人公の彼女と主題歌も意味不明
これらを全カットして90分に編集した方がずっと良くなっていただろう

それでも特撮でテロリストを騙そうとする根幹が面白いので何とか最後まで楽しめる

対策本部に千代田映像の営業車で乗り付ける、若林特技監督のシーンが楽しい!
役者が中野昭慶特技監督そっくり!服装まで同じ!
特典映像の特撮の撮影中に中野特技監督が着ていた服装そのもの

テロリストに観せる本番放送シーンでも、対策本部長から、さすが特撮の若林監督ですなあ!と誉められて頭を掻くシーンも愉快!

実際、特典映像での中野昭慶のインタビューによると本人に出演要請があってその気にもなっていたが、特撮のほうが忙しくてとてもそれどころでなくなったという
千代田映像は、実際の東京映像のもじり

高層ホテルの一室に軟禁されている映画関係者の一人が「俺が撮った地球1999年の映像だ!」
と話すシーン
あれはノストラダムスの大予言の舛田利雄監督のつもりだろう
そう思うとなんとなく似ていてこれも愉快

肝心の大爆発シーンは、流石の出来映え
爆発の中野昭慶が渾身を込めた、爆発シーンの集大成で大いに見応えがある
怪獣映画や、ウルトラシリーズで石油コンビナートが大爆発炎上するシーンは数多いが、これを上回る迫力がありかつリアルな特撮の映像はない
その後何度も他作品で流用されるのも当然だろう

現代なら爆発エフェクトのCGで、同様のものは幾らでも作ることができるだろう
しかし本作の爆発シーンのような熱を感じられるものではない
どこか嘘ぽさがある
見た目の映像クォリティはあがっていても、その迫真性が画面にないのだ
クリストファー・ノーラン監督がこだわっているのはそこなのだと思う

本作はやはり失敗作と言わざるを得ない
ただ特撮部隊は頑張ったことは評価すべきだ

しかし1977年スターウォーズが公開される2年前
日本の特撮にはそれに対抗する特撮技術も、備えも体制もなにも無いまま黒船を迎えたことがハッキリと分かる

ガラパゴスの進化の行き止まりにいたのだ

あき240