「実は東海道山陽道を股に掛けるロードムービーだったことに驚く」東京物語 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
実は東海道山陽道を股に掛けるロードムービーだったことに驚く
先日観た「羅生門」に続き、今年7月で閉館となる丸の内TOEIで開催中の『昭和100年映画祭 あの感動をもう一度』へ。今回は小津安二郎監督の永遠の名作「東京物語」を鑑賞しました。「羅生門」は配信で観たことがありましたし、黒澤作品はその他にも観たことがありましたが、小津作品は配信、劇場を問わず今回が初めてでした。
で、本作については、ダイナミックな展開が柱となる黒澤作品に比べると、大きな出来事が起こらない日常を描いたお話という認識で、笠智衆がずっと自分の家で過ごすお話なんだろうと思っていたのですが、実際に観たら全く違い驚きました💦自分の家どころか、尾道に住む平山周吉(笠智衆)・とみ(東山千栄子)の老夫婦が、東京に住む長男の幸一(山村聰)と長女のしげ(杉村春子)に呼ばれて東京に赴いて東京見物をし、滞在が長引きそうになると世話が面倒になった幸一としげが両親を熱海に体よく湯治に追いやったかと思えば、周吉ととみが再び東京に戻ってから尾道に戻る道すがら、とみが体調を崩して三男の敬三(大坂志郎)がいる名古屋で療養し、ようやく尾道に帰宅したかと思えばとみが危篤になり、そのまま亡くなってしまうという、東海道山陽道を股に掛けた一大ロードムービーでした。
また、両親をぞんざいに扱う幸一ととみに比べて、次男の嫁の紀子(原節子)は、2人を心から大事に扱うという対比も中々の見所。本作が公開された1953年と言えば、敗戦から8年しか経過しておらず、それなりに親子・家族の絆と言うものが色濃く残っていたように想像していましたが、実はその頃から徐々にそう言った考えが後退していた、もしくはその兆候があったのであり、そうした時代背景を元に小津監督が本作を描いたと考えるのが妥当なのではないかと感じたところです。そういう意味では、実は本作の主人公だった紀子は、折り目正しい前時代の象徴であり、幸一やしげは時代の先端の象徴だったようにも思えます。
さらには、基本的に穏やかな基調で描かれた本作も、紀子の夫が戦死したという重たい事実を土台にしており、また周吉とその友人である沼田三平(東野英治郎)、服部修(十朱久雄)の3人による居酒屋での会話でも、沼田三平をして「戦争はしたらいけない」と言わしめており、敗戦から8年、(一応)主権回復から1年経過した当時においても、戦争による深い深い傷が人々の心に残っていたのは間違いのないところなんだとヒシヒシと伝わって来ました。
以上、観る前はどんなに退屈な話なんだろうと勝手に構えていたものの、ものの見事にその予想は覆されました。そして当時の人々の心情を正確に映し出した極めて優れた作品であると当時に、尾道→東京→熱海→東京→名古屋→尾道を移動するという物理的にもダイナミックなお話であり、先の展開を観たくなるほどにのめり込む作品であることを感じ、非常に感激した次第です。
そんな訳で、本作の評価は★4.8とします。