「老夫婦の幸福」東京物語 anne_of_shizuokaさんの映画レビュー(感想・評価)
老夫婦の幸福
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東京における子供たちの暮らしぶりに直に触れ。老夫婦は子供たちの今現在一番大切なものが親である自分たちではなくなったことに一抹の寂しさを覚えるものの、その数倍の幸福を感じたはずだ。そこにはまっとうな営みがある。大切な幼子たち、大切な仕事、連れ合い・・・。守るべきもののために奮闘する子供たちの姿がかつて自分たちがそうであったことを思い出させ更に老いて一線を退いたことを再確認させたに違いない。自分たちの手を離れ子供たちは各々立派に城を築いたのだ。 逆に言えば上京した自分たちを相手する余裕がある紀子にはその守るべきものがないことの証左。寂しくとも気楽であると気丈に女の一人暮らしをしていたところに未来の理想図ともいえる優しく仲睦まじい老夫婦が訪ねてきては穏やかではいられなかっただろう。さらに肉親同士の遠慮抜きに言いたいことを言い合える様など見せられれば尚更である。どんなに強い人でもおっぱいが恋しくなる。それを見取った老夫婦に再三次男のことは忘れて新しい人生を歩みなさいと言われれば言われるほどまた紀子は切なくなる。自分が老夫婦を大切にすればするほど彼らは自分のことを心配する構図があるからだ。自分のことに心を砕いてくれた義母に安心してもらう間もなく逝かれてしまう紀子の口から「仕方ないのよ皆そうなるのよ」と京子を諭させるシーンは心動かさずにはいられない名場面だ。
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