「「ちょいと」とよく言う東京の人」東京暮色 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
「ちょいと」とよく言う東京の人
山田五十鈴が目当てで見た。彼女が小津安二郎の映画に出演した唯一の作品らしい。原節子がいつもと異なった役回りで良かった。見合いで結婚した夫が仕事ゆえに荒んでしまっているため2歳の娘と実家に戻る。彼女は自分たちがまだ小さい頃、子ども達を置いて離婚した母親(山田五十鈴)を許していない。そして久し振りの再会でも強硬に母親に物を言い妹(20歳にはなってると思うが幼い。恋人ができたのが運の尽き?)と父を守る。母親が東京を離れることになってもとにかく無言で通す。こういう原節子はとてもいいです。
でも最後、娘を連れて夫のもとに戻ることにした理由を父親に述べるがその内容が嫌だった。「子どものために」。これほど子どもが成長してから聞かされて嫌な思いになる言葉はなく、おためごかし以外の何物でもない。夫の京城(ソウル)赴任中に離婚を申し出た母親の方が正直で潔い。娘との久し振りの再会でも、卑屈になることも母親ぶることもなく普通に接して会話する。山田五十鈴、まさに適役。
今の町名とちょっと異なる「牛込東五軒町」を耳にしたり、五反田の様子を見たり、何度も映った急坂から「雑司が谷の奥に住んでる」ことに納得したりして楽しかった。また誰もが「ちょいと」と頻繁に口にするのがとても面白かった。古典落語でしか耳にしない「そう言っとくれ」も聞いた。五反田の雀荘の「寿荘」の近所のラーメン屋「珍々軒」では必ず沖縄の唄「安里屋(あさどや)ユンタ」が聞こえてきた。他の場面でも東京以外の地域の民謡や唄が聞こえてくる。いろんな所から東京に人が集まる最盛期の始まりの頃だろうか。関西弁の人も登場していた。昔の映画を見ると、物語とか構成よりも当時の都会の様子、住まい、洋服と着物、言葉、飲み屋、風俗にばかり関心が行ってしまう。