「60年安保に向けて世相が騒然となりつつある中で、松竹大船調がのんびりとしたプチブルジョア的だとの批判を受けていた事に対応したものかもしれない」東京暮色 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
60年安保に向けて世相が騒然となりつつある中で、松竹大船調がのんびりとしたプチブルジョア的だとの批判を受けていた事に対応したものかもしれない
1957年の作品
小津監督の最後の白黒作品
60年安保に向けて世相が騒然となりつつある中で、松竹大船調がのんびりとしたプチブルジョア的だとの批判を受けていた事に対応したものかもしれない
政治的なニュアンスは微塵もないが、戦後世代の自由な生き方の実相をえぐろうという監督の意欲は大変伝わってくる
但し暗く、重い
原節子も麦秋で見せたような毒のある役を演じる
珍珍軒の主人の台詞
アプレ(ゲール)のよ、あの子だよ
おい、下の口を閉じといてくれ
まさか小津監督作品でこのような下品で辛辣な言葉を聞くとは思わなかった
明子と喜久代の台詞
ねぇ、お母さん、一体私誰の子なのよ!
そんなことまで私を疑うの?
この会話は明子と学生木村の会話の相似形でハッとさせる
戦後民主主義の子供なの?
戦前から地続きの日本の子供なの?
それがこの場面の真の意味だ
明子や孝子がこの様になったのも、彼女たちの親の世代に責任があったのではないかと追及し、その通りであったかも知れないとの自責の視点が発する言葉だ
クライマックスの踏切の恐ろしさは初めて登場するときから漂わせている演出の見事さ
学生木村の無責任さは、病院にすらついてきていない
これは小津監督の学生運動への不信の視線を反映していると思う
だから当時の若者たちには支持されないのも当然なのだろう
ラストシーンで周吉は孝子が忘れて帰った赤ちゃんのガラガラを愛おしく振ってみせる
本当の戦後世代には罪はない
健やかに育って欲しい、その願いが込められている
結局のところこのような社会性を持たせることは小津監督作品にはなじまない
それが観客にも、監督にも明確になったと思う
それでも、本作は傑作であると思う
コメントする