劇場公開日 1965年3月20日

「平和の祭典」東京オリンピック きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0平和の祭典

2024年12月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

長嶋も王貞治も、昭仁皇太子夫妻(当時)も固唾を飲んで見守る東京オリンピック

この東京オリンピック、
僕はテレビの生中継で観ました。
当時4歳。吉祥寺のアパートです。
大家さんのおばちゃんがお部屋に呼んでくれて、テレビジョンで見せてくれました。
日本選手団の堂々たる入場行進を、はっきりと覚えている僕です。

ついこの前のオリンピックの記録映画=「2020版」は河瀨直美でしたね。

「1964年版」の本作は、日本の庶民に向けて
「オリンピックとはどんなものか」を見せてくれる「教育・記録映画」としての側面と、
映画作家=市川崑の「五輪に込める人類平和の思想」を、車の両輪として、40年を経てから、2004年に改めて作り変えられた「ディレクターズカット版」でした。

たびたび監督の「願い」と「祈り」が、字幕として画面に投映されます。
つまり、単なるドキュメンタリーではなく、総体として、“文学作品”としての編集がなされているのです。
安岡章太郎や谷川俊太郎もチームに入れていることでもそれがわかります。

まずその内容の素朴さに驚きます。

女子水泳選手の名前の読み上げに「さん」が付けがなされれます。
また男子マラソンでも場内アナウンスは「くん」付けです。
町並みはもちろんのこと、60年前の応援する日本の庶民の顔つきなど、とにかく被写体の全てがバック・トゥ・ザ・フューチャーで面白い。
そして競技の最後を飾る男子マラソン。
アベベの後方から「落伍者収容」と大書したバスが写った時には、思わずデッキを止めて吹き出してしまう。

本作の鑑賞を終えて、
競技者たちの身体の躍動感とスポーツマンシップの高潔さに敬意を覚え、
感動のため息をついて、
やはり改めて返す返すも残念だったのは、先年の「2020年版の東京オリンピック記録映画」の哀れさでした。

・コロナ禍による1年の延期に加え、
・運営側の総崩れ。
・汚職、逮捕、金権まみれのあの開催を、
川瀬は記録映画として触れないわけにはいかなかったわけで。
「記録にも芸術にも、そして教育にもなりえなかった混乱」を、その混乱のまま仕上げたあの河瀨直美版。
あの闇に葬ってしまいたい「黒歴史」の「2020版」だ。

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今年は第39回パリ五輪の年。
2024年のパリオリンピック・パラリンピックのメダルには、過去の改修の際に取り外されて、極秘に保管されていたという「エッフェル塔の鉄骨材」が使われることになった。
金 銀 銅の各メダルには、フランスの国土を表す六角形のその「鉄片」が象嵌されている。
オリンピアン、パラリンピアンたちは、その表彰メダルと共にフランスのスピリットを自国に持ち帰ることになる。
デザインは、かのLVMH傘下の超高級宝飾ブティック、ショーメ。

メダルの意匠、競技場の威容、招致ビデオの卓越さ、etc.
世界各地で、またいずれの開催回に於いても、主催する国が自国の威信をかけて執り行われてきたこのオリンピック。
招致と開催そのものが、すでにアスリートそっちのけの熾烈な“デッドヒート”となっているのかも知れない。

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本作品は、当初依頼されて上納された3時間を超える公式記録映画から、20分のフイルムをカットしたものらしい。

2004年のこの時期になぜリメイク発信を?

もともと短い演奏時間の「君が代」が、たぶん意識的に?全曲流れずにカットされていることに、僕はハッとした。

本作品は、
「ビルマの竪琴」
「野火」
を撮ったのが市川崑なのだと解っていなくては、「反戦」という本作の隠れ主題は見えてこないのだと思った。

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馴染みのない競技が次々と追加される五輪であるが、
「テレビゲーム」と
「ブレークダンス」(ブレーキン) がパリ五輪からの新種目だそうだ。

「ブレークダンス」がなにゆえと思ったが、その発祥は、
・ナイフや銃やメリケンサックを捨てて、
・暴力沙汰に明け暮れていた若者たちに抗争を断ち切り (=Brakeし)、
・ダンスだけで勝負する「新しい戦い」を教えたひとりの人間がいたことを僕は知り、言いようのない感動を覚えた。
サーフィン、テレビゲーム、そしてブレークダンス、
いいじゃないか!

市川崑が存命していたら、このへんてこな競技を心底喜んでくれたのではないかと思う。

( ちなみに僕は人を標的として競う「ピストル競技」だけは反対している廃止論者です。
クレー射撃や 槍投げなどの、原始の時代からの「食料を得るための狩猟」が由来の競技ではなく、
人間を撃つ事が目的のピストル。
人の命を威嚇するための道具、ピストル。
警官や軍人しか参加できない特殊競技。
そんな「ピストル競技」は、異様だし五輪憲章には、まったく、絶対に、そぐわない。
廃止か非公開が望ましいと思います )。

追記:
せっかく開催国特例の「種目の希望が通る制度」があるのだから、
逆に、銃規制の国=日本での開催であればこそ、「ピストル」は止めるか、青少年の目には触れぬように、IOCに対して特例で非公開を望むべきだった。
人を標的にする武器の腕前で、金メダルを取る競技を、
オリンピックは今後も続けるべきか?

きりん
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2024年12月7日

またまた、きりんさんの独特な視点でのレビューを興味深く拝読させていただきました。
選手呼び出し時の「…さん」「…くん」も懐かしく思い出しました。
そして、何よりも、オリンピックにおけるピストル競技の違和感、よくよく考えてみれば私も全くの同感なのですが、それをこれまでは認識することもなくおりました。
また別の作品で新たな気付きを頂けますことを期待して、御礼に代えさせて頂きます。

KENZO一級建築士事務所
talismanさんのコメント
2024年12月7日

市川崑のこの映画、記録か芸術か(でしたっけ)と議論になったんですよね。高峰秀子さんは市川崑さんの側に立って。そんな文化的な議論ができて映画人も自信を持って意見を表明できる時代が確かにあったこと、知らなくては!と思います

talisman