「往年の謎作」太陽を盗んだ男 2638さんの映画レビュー(感想・評価)
往年の謎作
折しも「本物」が現れたようなので、前々から見ようと思っていた本作をやっと見ました。
何をしたいのかがわからない。というのがこの作品の主題の一つなのだが、この時代は本当に「幸せ」だったんだろうなあと感じた作品だった。幸せで満ち足りている時は、不満や要求は生まれない。だからこそ前時代に取り残されている冒頭の老人の存在が映える。
で、最終的にこの映画の印象として残るのは、「世代」だろうか。
役者に注目すると、沢田研二のだるさは当時のトレンドだったのだろうし(今なら即懲戒だけど)、菅原文太は格好良かったし、にゃんこは可愛かった。池上季実子はキャンキャンやかましかったが、当時の女優の声色は大概あんな感じだから仕方ない。
何か妙に「わかんねーな」と感じるのは、昭和の世界観で倫理観ぶっ飛び系の狂人を見るのに慣れていないのかもしれない。平成の狂人は狂ってるなりに何となく本人の中での論理や理屈が語られ(幼少期のトラウマとか)たり、本当に徹頭徹尾狂ってるのでそもそも論理が必要ないことが多いように思う。それは平成映画の親切さなのかもしれないが、それに対して、昭和後期の彼は、なまじきっかけたる事件があったことが一見答えに見えるのに、妙に難解にさせている気がする。強烈に「生き延びた」経験を得てしまって、日常に戻った時、生きている実感がなくなったのかなーと思われた節(ぎりぎりスクワットなど)はあったが、何故か妙に「本当にそれだけ?」という気持ちにさせられた。おそらく、「それで何で原爆? しかもプルトニウム?」という一番大事な繋がりが読めなかったからかと思う。
冒頭の老人に戻って、彼に注目した時、そこにはちゃんと感情や理由があって、感情移入を促すような仕掛けがあった。しかし「何がしたいのかわからない」系主人公には、自分はどうも共感できなかった。本当に狂人なら共感できないのも全く気にならないのだが、本作主人公は一応世間に溶け込んだふりをしている。そこに行動の一貫性がなくて、「何がしたいんだお前」「だからわかんねって言ってんだろ」「じゃあ徹頭徹尾狂ってろよ隠蔽工作とかしてんじゃねーよ」的な理屈の通らなさが気持ち悪いのかもしれない。
尾崎豊に今の人が共感できないのと似たものを感じる。「何がしたいのかわからない」「どこかへ行ってしまいたいのに行けない」からって何で窓ガラス割る? バイク盗む? 年齢や社会の閉塞感があることには共感や同情ができても、それを理由に他人に迷惑をかけるような作品には全く共感できない世代で育った自分にとって、そんな奴は狂人で、狂人とは仲良くできない。
「世代差」というものを描くのも一つの主題だったようだが、今見てもそれを考えさせられるということは、その点非常に上手く行っているのかもしれない。
歌うだけ、スクリーンの中だけ、当時もそうだったのかもしれないが…でも、じゃなかったらあんなに尾崎ヒットしたりしないよなあ…とも思うわけで。
一番心に残ったのは、「お前が殺して良いのはただひとり、お前自身だ」という台詞。厳しすぎるけど真っ当過ぎる正論で、この台詞のおかげで何か妙に安心できた。