「あの世とこの世の狭間」台風クラブ kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
あの世とこの世の狭間
逸脱した表現が多いように思えますが、めちゃくちゃ本質的なことが描かれている映画だと感じました。
心身の急速な変化により情緒が不安定になる思春期と台風を重ねる演出はベタながらもとてもわかりやすいです。実際、思春期の彼らにとっては内側に台風を抱えている状態ですし。彼らはなんとか現世に足をつけて踏ん張っているものの、何かの拍子ですぐにあちらの世界に巻き込まれてしまう。本作では台風によって異界に飛ばされてしまった中学生たちの物語でした。寓話として完璧なのでは、と感じています。
登場人物で注目したのは、リエ、ミカミ、シミズの3人。共通するのは家族とのつながりの薄さです。軸というか根っこが弱いため、外的なエネルギーの渦に容易に巻き込まれてしまう。リエのスプーン曲げや顔に描く模様は、魔的な力を内側に取り込んでなんとか強くあろうとしているようにも感じます。今で言う、邪気眼的なやつですね。通過儀礼としての厨二病。
シミズにおいては要支援家庭ですよね。貧困とおそらくネグレクト。「おかえり」「ただいま」はシミズの寂しさがだだ漏れでヤバすぎるし切なすぎる。ミカミ家はさほど目立たないけど、知性ばかりの交流が目立ちます。
とはいえ、リエやシミズは台風とともにあちらの世界に飛ばされますが、途中でふと我に返ることができます。目が覚めて、現世に戻ってくるイメージです。
そこに、人間の持つしぶとさとか、原始的な強さみたいなものを感じました。異界に惹かれても、結局生きるのは現世。守りのない中で、揺れながらもギリギリで踏みとどまれる力には健康さを感じます。一見、どうみてもヤバいシミズですが、良い環境に出会えればちゃんとした人間に成長するかもしれません。
一方で、大人は総じてクソです。家族の薄さも印象に残りますが、やはり三浦友和演じる先生のインパクトが強烈。流されて自分を生きれず、その虚無からくるフラストレーションを教え子にぶつけるという、凄まじい屑です。
「お前も15年経てば俺みたいになるんだよ」
という、ミカミに対してカマした台詞は、15歳の少年にとっては未来を失わせる呪いの言葉以外何者でもないです。
台風クラブのメンバー全員が無事だったわけではありません。思春期を迎えた彼らはあの世とこの世の間を揺れますが、この世に戻る力があります。しかし、一歩間違えば、この世に帰れない危ういバランスの上に立っているのです。
そのような状況下でこの教師のような存在に遭遇して呪いをかけられると、この世に戻る力が失われます。しかも、教師ですからね、その辺のオッサンとかではなく。
このような大人メフィストフェレスであり、純度の高い悪だと思います。
本作も相米慎二らしい長回しが目立ち、中盤まではやや冗長に感じました。しかし、クライマックスはさすがで、長回しが異様な緊張感を生み出していたと思います。『もしも明日が』の徹底的に空っぽな響きには胸を撃ち抜かれました。
工藤夕貴は特異で危うい魅力を放っていて、とても印象に残ります。
そして、もっともヤバかったのは三浦友和ですね。『葛城事件』でも究極の屑人間を演じており、私にとって三浦友和は日本屈指の下衆俳優として認識されてしまいました。一見爽やかっぽいので、下郎を演じると逆にリアルなんですよね。