劇場公開日 1960年1月30日

大虐殺(1960)のレビュー・感想・評価

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3.5扱う題材の重さに対してあまりにも行き当たりばったりな展開と演出か...

2022年10月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 とにかく、冒頭15分の朝鮮人虐殺の場面があまりにも明け透けで圧倒されます。大震災による不安からの流言飛語を容易く信じ込んだ民衆と、それを宥めるという目的のためになんの深謀遠慮も無く軍部が朝鮮系の人々を捕縛して銃殺し、その銃声と悲鳴が問題になると今度はトラックに乗せて河原で開放すると見せかけてまたしても銃殺と火を放っての証拠隠滅…。
 肉の焦げる匂いに鼻を摘む現場の軍部高官の描写が示すように、センセーショナルな内容をただ興行収入の一点目標ゆえに採用した当時の新東宝の製作方針が想起され、ただただ啞然です。
 その後はようやく地獄絵図から移行しての天知さん演じる若き無政府主義者古川の悪戦苦闘劇ですが、同志を無残に殺されて己の一方的なヒロイズムで思考を単純化・先鋭化させ、想い人をはじめとした人間関係を整理し、女を買って恐怖を紛らわせつつ決心を決め、勝ち目の無い絶望的な闘いに身を投じる・・・つまりは相手とするところが違うだけで、まるでヤクザの鉄砲玉そのものです。
 新文芸坐トークショーではテロの軍資金集めのための銀行家襲撃の様子のチープさや、終盤の陸軍省襲撃シークエンスでの見張りの薄さにツッコミを入れてそのへんの緩さを楽しみ処に挙げられておりましたが、出自や経緯は違えど暴力装置に頼る輩が辿る道は同じ、という真理が端的に顕れているところは、本作の真面目に評価すべき点かとも思いました。

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O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)