その男、凶暴につきのレビュー・感想・評価
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繊細な男による暴力描写
「ソナチネ」も「HANA-BI」も「アウトレイジ」もこの映画がなかったら生まれていなかった。北野武映画の原点である。ただ歩いているだけで、走っているだけで、黙っているだけで、これだけ絵になる男は他にいない。会話を終えた後の一瞬の沈黙。この「間」と役者の表情で語らせる。観客にそれぞれの役者の心境、心情を想像させる。もはやアートである。
暴力描写がこれほど美しく恐ろしく描かれている映画を他に知らない。銃撃戦はどこか「タクシードライバー」を想起させるが、他の映画と比べてはいけない唯一無二の映画なのだ。
本作は急遽代役として監督を務めたらしいが、北野武がこの映画を撮るのは必然だったと思わせる。世界のキタノへの出発点であり、邦画史に残る名作である。
嫌な気分…
1980年代後半、日本映画の収益がガタ落ちし、アニメか特撮しか観客が
入らない状況の中、一番の異色として出たのが、ビートたけしこと北野武
監督のデビュー作である、この映画。
思うに、当時の日本映画の主人公は「何となく気の良さそうな男」という
物が多かった。
「フーテンの寅さん」の主人公が良い人で、ずっとヒットしているから、
他の映画でも「良さげな人」を主人公にするみたいな…
この「その男、凶暴につき」は、タイトル通りに凶暴な男が主人公で、
改めて見ると、彼は何に対して怒り凶暴なのかの理由は無くて
日本映画に「凶暴な男の主人公」が、いないなら「俺が監督をやって、
俺が主演する!」という形で、この映画になったのではないか?
ラストはネタバレになるので、詳しくは書けないが、ほぼ全滅な終わりで
見終わった後に、嫌な気分で暗い感じになる…
黒澤明監督の映画は「人間の業」を描いて暗い感じになる事があるが
「業」と「嫌な気分にさせる」は違う。
しかし、あの久石譲さんを音楽に起用させたのは、この独特の映像美に
魅かれOKを出したのであろう…
映像と音楽の美しさだけで引っ張っていった作品。
この後も、しばらく北野武監督の映画を観続けたのは、やはり作品に
★1では終わらない「何か」が、あったのであろう…?
タケちゃん
最初の北野映画でありながら最高の一作
静の内側に秘めた狂気
やっと観た。
死に最も近い男
北野武の演技は徹底的なまでにシステマチックだ。たとえば冒頭でホームレス狩りの悪ガキの家に土足で上がり込んで顔を思い切り殴りつけるシーン。これが普通の刑事ドラマなら「お前には人間の心がないのか!」と喝を入れるか、そうでなくてもせめて怒りと無念に引き裂かれた苦渋の表情の一つでも浮かべてみせるところだが、北野演じる刑事は一切の言葉も発さず、一切の表情も浮かべない。
それでは彼はいったい何に従って動いているのか?受け売りの正義感でも幼稚なサディズムでもない、言うなればシステムのプログラム。「悪は断たれるべき」と、誰かがそういうコードを記述した。そして彼は現象という変数に従ってそれを実行するシミュレーターだ。同僚をヤクザに殺されたり妹をヤク漬けにされたり、いかにも人間の激情を誘うようなできごとが立て続けに起こるが、彼の暴力はただ暴力として発露されるばかりでそこに情緒の色彩はない。こいつは果たして機械なのか人間なのか?不気味の谷現象にも似た居心地の悪さが作品に張り詰めたホラーと緊張を与えている。しかし謎は最後まで明かされず、彼の劇的な死とともに映画は幕を閉じる。
しかし考えてみれば、理由律を失ったままロボットのように生きている人間というのは案外多いんじゃないか。それが単に暴力的発露に結びついていないというだけで、あらゆるできごとを感情なくシステマチックにやり過ごしている人間というのはどこにでもいるんじゃないか。ひょっとしたらあなたも私も、自由意志に従っているようで、実のところ出所の知れない定言命法に従っているだけなのかもしれない。しかしそういうシステム人間が向かう先は、本作や『ソナチネ』が示すように、悟りにも似た死の世界だ。
北野武作品では一番おもしろい
アウトレイジに繋がる狂気。
監督デビュー作
映画好きを自称していましたが北野武作品は海外での受賞や評論家からの評価が高いという話は聞きつつも鑑賞したことがなかったので何から見ようか探していたところ、youtubeで冒頭のホームレスをリンチするシーンの映像を見て引き込まれたのでこの作品から見ることにしました。
結果として自分はこの作品がきっかけで北野武映画にハマり、2ヶ月の間に18本の全作品を一気に見ました。
で、その全作品の中でも一番好きなのがこの「その男、凶暴につき」です。
単純にたけしのルックスが一番色気があってカッコいいからというのもありますが、ラストの倉庫のシーンの画のカッコよさが堪らないからです。
また、セリフの少なさや説明を極力排除する点、画のこだわり、バイオレンス的要素などこれ以降の大半のたけし映画の原点になっていると思うからです。
我妻は後半の刑事を辞めて以降の約30分、実はひと言も言葉を発していないのですが、おそらくほとんどの方は気付かれていないと思います。
これは画や我妻の行動だけで心情を推し量る事ができるからではないでしょうか。
たけしがいかに言葉を使わず表現することにこだわってるかがわかります。
クレジットで脚本は野沢尚さんと記されていますが、たけし自身が映画を撮っていく過程で大きく内容を改変しています。
当初野沢尚さんはその事に激怒していましたが、その男凶暴につきの脚本を元にした「烈火の月」という小説のあとがきで映画を見て傑作だった、ラストの妹を殺すというアイデアを聞いた時は天才だと思ったという風に語られています。
30年以上前の作品ですが今見ても全然楽しめます。
たけしは、美しくもあった。
久々の再鑑賞。
当然の事ながら、皆さん、お若いですよね。
そして細い(笑)
粗はありますし、時代を感じますが、それでも面白いのは、脚本に加えて、ビートたけしさんの演技に依るところが大きいですよね。
初監督にして主演作ですし、急遽決まった事もあって、今観ると未熟な点も無いわけでは無いですが、感情を読ませない演技は秀逸ですね。
そのせいもあって、次にどのような行動を取るのか予測出来ないため、緊張感が有り、不安を煽っているように思います。
監督としての北野武さんは素晴らしい才能の持ち主だと思いますし、お笑い芸人としてのビートたけしさんもそのセンスを含めて好きですが、演者としてのビートたけしさんもまた佳いですね。
他の作品も観返してみたくなりましたし、TVドラマなど未視聴の物もあるので、こちらも観てみようと思います。
カッコいい
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