劇場公開日 1989年8月12日

「傑作中の傑作です! 30年が過ぎ去っても未だに革新さは失われてはいません」その男、凶暴につき あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0傑作中の傑作です! 30年が過ぎ去っても未だに革新さは失われてはいません

2020年6月11日
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鑑賞方法:DVD/BD

異常な緊張感が全編を支配しています
無駄が一切ありません
説明シーン、セリフ、演技
過剰なものが可能な限り削ぎ落とされています
それが緊張感を生み出していると思います

もともとは深作欣二の監督で製作を予定されていたとのこと
それを深作監督が受けなかった為に、話題性で急遽、主演のビートたけしが監督することになったといいます

もし深作欣二監督が本作を撮っていたとしたらどうなっていただろう
同じ脚本でも北野武監督と深作欣二監督では、全く違う映画になっていたでしょう
一言でいえば、昭和のままの刑事ものか、平成の時代の新しい刑事ものの映画の違いだと思います

それ程、北野武監督の映画は新しいのです
手垢にまみれていません
ピカピカに磨かれた真鍮のように光輝いています
新しい時代の映画になっています

主人公の我妻刑事と新米刑事がいく酒場なら、ガールズバーと居酒屋の違い
仁藤の店なら、波止場近くの洒落たレストランと料亭の違い
清弘の子分のチンピラが聴く音楽なら、レゲエと演歌の違いです

舞台は北品川、京浜新町
深作欣二監督監督なら同じ舞台であっても、仁藤のレストランはああならないでしょう
あの場所は波止場のバーで有名なスターダストのある辺りのようにみえます
昭和の感覚なら、新宿か五反田あたりになってしまっているとおもいます

新しい時代の映像感覚がそのような舞台設定だけでなく、音楽、撮影、衣装、セットに縦横に展開されています
正に革新であったと思います

撮影も美しい
照明の使い方、光と影の造る構図の絵画のような美しさ
とくに終盤の暗い倉庫内部での逆光、白い列柱に差し込む三角形の白い外光
ハッとする美しさです

お話は基本、ダーティーハリーの日本版です
ですがそれだけに終わっていないのです

基本、主人公は何時も静かに怒っています
表面的には何を考えているのかわからない無表情に見えますが、その心理的な仮面のガードの下に沸騰しかけの怒りが圧力をもって閉じ込められているのです

その怒りは、単なる悪への怒りとかの薄ペラいものではありません
官僚的な警察組織にでも、警察内部の腐敗でも、不良少年達でも、覚せい剤密売のヤクザ組織でもないのです

そんなことを総てひっくるめて、腹をたてているのです
精神病院の入退院を繰り返しているような妹の境遇のこともそうです
自分のパッとしない人生にもきっと腹をたてているのだと思います
世の中の何もかもが面白くないのです
ムシャムシャしているのです

だから、彼の瞬間切り替えスイッチのような怒りと暴力の発動は自然で一瞬なのです
そしてそれは私達の日常の不満、イライラ、不機嫌を代弁してくれているのです

だから本作の暴力にはカタルシスがあるのだと思うのです

もしも深作欣二監督が本作のオファーを受けていたなら、北野武監督の誕生はなく、その後の世界の北野武監督も無かったのです

傑作中の傑作です!
30年が過ぎ去っても未だに革新さは失われてはいません

あき240