全身小説家のレビュー・感想・評価
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万人受けはしないが、原一男監督作品が好きなら
「ゆきゆきて、神軍」があまりに衝撃的だったので原一男作品に興味を持ち鑑賞。
癌を告知された作家・井上光晴の闘病生活を追ったドキュメンタリ。
井上氏は非常に社交的な性格。「文学伝習所」と呼ばれる小説セミナーを主催し、多くの受講者とは自宅で酒盛りをするほどの仲良さだ。
受講者には女性が多く、驚くことにほとんどの女性が彼に男性としての好意を抱いている。インタビューに応じる女性たちは皆、眼を潤ませ、艶かしい表情で彼を語り、井上氏のカリスマ性が見てとれる。
映画は井上氏の癌との闘病生活を中心に描かれるが、一方、関係者へのインタビューを重ねるうちに彼の出自に不可解な事実が浮かんでくる。
作家の闘病記としての側面と、その内面に潜む虚構を暴いていく調査報道的側面の二面性が面白く、映画の引き込まれていく。
中盤に手術シーンがあるが、かなり生々しいので鑑賞には注意です。
小説より奇なり
寂聴さん
ネット社会になってショーンKの様なあからさまな詐称はバレやすくなってしまってますが、井上光晴の様な嘘は昔から普通にあると思います。
井上さんはロマンチックな人生の方が小説家としても箔がつくだろうし、本人がそう思い込んでいれば自分の中でも真実になってしまうだろうし。だから、ノンフィクションもドキュメンタリーも虚構があって当たり前というか。私達が与えられているニュースや情報を虚構として捉える事ができたら、世の中の見方も全く変わるのでやっぱり前提を分かっていた方が良いです。
葬儀の寂聴さんの弔辞は、寂聴さんも周囲もお互い嘘前提で聞いたり言ったりしてます。何か寂聴さんの肝の入り方が半端なくて、私はやっぱり凄い女性だと思いました。
森監督は、この作品に影響されて「FAKE」を撮ったのでしょうか。
これぞドキュメンタリー
特集上映「挑発するアクション・ドキュメンタリー 原一男」にて。
井上光晴は井上荒野の父というイメージしかなかったが、これは魅力的だわと思うしかなかった。語り口も上手いし。女性の証言の生々しさも相まって、艶かしい。
後半で彼の「嘘」が鮮やかに(?)暴かれていくのは若干コメディチックでもある(実際笑いが起きた)のだが、虚構を生きざるを得ないひと、そしてそのまま虚構を紡ぐことになったひとというのが興味深い。
手術のシーンはよく撮れたなと思った。あそこまで生々しいシーン昨今の映画にあるだろうか...。
あと個人的には勝手に私の中で伝説化していた埴谷雄高が当たり前のようにインタビューに応えたり井上光晴の見舞い来たりしていて、誠に恥ずかしながら「ああ実在したんだ...」という気持ちになった。
ちなみに上映後のトークショー、原一男監督によれば「この映画の影の主役は瀬戸内寂聴だ」とのこと。埴谷雄高もそう言ったそうです。
ウソつきみっちゃんの人生
・作家井上光晴がガンにおかされて亡くなるまでの闘病生活に密着しつつ、彼の死後、彼の嘘の証言を周りの取材から検証していくという二つのスジを同時に走らせたスリリングなドキュメンタリー
・彼は嘘をつく、ドキュメンタリーも嘘をつく
・手術シーンで腹をメスでかっさばいたときの肉にくしさ、体内から取り出した850グラムの生の肝臓の衝撃
・家族の嘘の話と再現ドラマを交互に写すことにより、虚と実をぐらぐら行き来する
・過去の話をするとき、自分の都合のいいように改変したら真実というのはいったいどこにあるのか
・井上の葬儀で瀬戸内寂聴が体の関係のない唯一の友人と言いはなった眉唾な場面にニヤニヤ
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