「規定されたくない女」春琴物語 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
規定されたくない女
1954年。伊藤大輔監督。谷崎潤一郎原作の小説を映画化。幼いころから丁稚修行に入った大店には盲目で絶世の美女のお嬢さんがいた。その女性に長年にわたって献身的につくす男の姿を描く。
男は主人ー奉公人に加えて師匠ー弟子となり、とことん従属的に振舞う。女は恵まれた家庭に生まれたうえに美貌にも恵まれているが、さらに芸術上の高みを目指している。何から何まで言うことを聞く男と結婚をすすめる両親のやさしさを拒絶するのは、それが自分自身の思いを決めつけているからだ(あの男のことが好きなのだろう)。決めつけられること自体が許せないのであって、男とは子までなしているのだが、男への愛(通常の意味での)があるのかないのかは描かれない。主従という自分と男がつくり上げている関係を第三者に規定されたくないのだ。映画もそこまで踏み込まない。
物語の性質上、ヒロインの京マチ子は終始目をつむっている。服従する男である花柳喜章もラスト近くで盲目になるから目をつむる。二人の主観ショットがむずかしいのだが、記憶であることをしめす幻想的な映像、暗闇、画面のぶれ、などさまざまに工夫している。また、絶世の美女といわれているのだから客観的にそう見えなければいけないが、瞳がない顔に華がないのは否めない。その分は長いまつげと細く引いた眉が引き受けている。
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