「夫婦の深淵、毒々しく」死の棘 kakerikoさんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦の深淵、毒々しく
「おまえ、どうしても死ぬつもり?」
「おまえなどといってもらいたくありません。」
「それなら、名前をよびますか?」
「あなたはどこまで恥知らずなのでしょう。あなたさま、と言いなさい。」松坂慶子扮する妻ミホは、浮気をした夫(岸部一徳)にこう言い放つ。横並びにすわり、感情を閉じ込めて、しかし言っていることはまさしく相手の心に棘を刺す。冒頭シーンからこのような異様な夫婦の会話ではじまり、浮気という罪が夫婦の間に死の棘を打ちこんでしまったという話。妻は次第に神経を病んでいき、夫が見張っていないと突拍子もない行動をおこしてしまう。全編通して、夫婦の会話や行動が狂気じみていたり、時として滑稽に映ったり、二人の幼子を巻き込みころころと事象が変わりながら、一体この夫婦はどうしたいのだろう…。と観る者の心を捉え縛り付ける。一言で言うなら宙釣りにされっぱなし。
松坂慶子はノーメイクすっぴん顔で妻役を体当たり。特攻帰りの夫で妻に負けじと従順なのか開き直りなのか、同様に神経を病んできたのかわからなくなる役を岸部一徳がこちらも熱演。そして、愛人役は一見、知性理性がありそうなのに?という木内みどり。
こんな夫婦・家族の有り方は初めてだった。凄い作品に出会ってしまった。というのが、率直な感想。この監督作品、他のも鑑賞したくなった。
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