「これぞ日本映画が世界に誇る風俗喜劇の大傑作」しとやかな獣 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
これぞ日本映画が世界に誇る風俗喜劇の大傑作
これぞ日本映画が世界に誇る風俗喜劇の大傑作でしょう。
久し振りに観たが、昔はこの作品の良さをまだまだ理解出来て無かったですね…いや〜、改めて見直すと凄い!そして素晴らしい。
登場人物は僅かに11人だけ。しかも、小沢昭一とミヤコ蝶々、船越英二はゲスト出演的な怪演だけに、実質的には8人と言って良いでしょう。
作品全体を占める舞台は、殆どがアパートの一室で展開される密室劇と言って良い位で、寧ろ舞台劇に近い。
新藤兼人の脚本は、“もはや戦後では無い”高度成長時代がもたらした時代の隙間を好き勝手に生き、“正直者が馬鹿を見る”弱者にだけはならない…とゆう、この時代が産み落とした《巨悪》を、一つの家族を通して炙り出す。
しばしば映し出される室外に広がる新興住宅地の風景もさる事ながら、その上空を行き来する爆撃機(セリフではそう言われている)の音にこそ、戦争の不条理さ・虚しさを表している。
出演者達の見事な演技力も在りますが、何と言っても狭いアパートの一室を逆手に取り、人間の“業”を鮮やかに炙り出す川島監督の演出力と縦横無尽のカメラアングルには、思わず「あっ!」と声を挙げてしまう程にお見事の一言です。
人工的な赤い夕日をバックにして踊る姉と弟。真っ暗な部屋で静かに祝杯をあげる夫婦。そして、それに被さるラジオから聞こえて来る、能らしい歌声の何だか知らないが迫り来る不安感。
カメラは部屋の外へ僅か数回だけ出るだけで、この部屋に行き来する出演者達のアンサンブルと、幻想的な階段を上がる若尾文子演じる悪女に、階段を下りて行く哀れな高松英夫が印象的。
でも群を抜いて素晴らしいのが、伊藤雄之助と山岡久乃の詐欺夫婦。
もう素晴らしすぎる(笑)
ラストで「もう駄目だ!」と悟る山岡久乃の、何とも言い難い表情は圧巻の極みです。