「映画も物語も古い」地獄門 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
映画も物語も古い
総合:55点
ストーリー: 55
キャスト: 65
演出: 70
ビジュアル: 60
音楽: 60
長谷川一夫演じる盛遠は、今で言うところの立派なストーカーである。相手の意思も関係なく、脅してでも自分の好きな女を自分のものにしたいという自分勝手な役である。もちろんこの時代の映画であるから彼はストーカーなのではなく、男尊女卑で権力者が他人のことを好き勝手が出来る時代であることを考慮に入れての役の設定だろう。しかし力でなんでも出来るとかなり勘違いしたこの役は、現代の価値観からするともう見ていて痛々しいくらい情けないものであった。
そして京マチ子演じる袈裟もそうである。この時代の貴族の箱入り娘であるから、せいぜい文学以外にまともな教育もないだろうし危険にどうやって対応していいかなどわかりはしないだろう。とにかく叔母を人質にとられ、夫を殺すと言われているのである。自分が死ねば万事収まると考えたとしても致し方ない。
彼女の夫は、妻に信用されていないからこの事件を打ち明けられなかったと嘆いた。製作者は妻が夫を信用していないからというつもりで作ったのだろう。しかし彼女が夫を信じられないから危険を打ち明けなかったのか、単に危機対応能力がないから打ち明けなかったのか、本当のところは謎のままである。現代犯罪科学を多少知っていれば、弱い者は簡単に力の強いものに従ってしまうものということは常識。製作者はそこまで理解してこの物語を作ったのかどうか疑問である。ただ少なくとも自分を犠牲にしてまで家族の命を守ろうと必死なことだけはわかった。
そして最終的には非常に拙い結末となる。それもこれも盛遠が愚かな振る舞いをして、それに対して袈裟がつたない対応をしたからである。どうも現代の価値観の中で生きていると、このような彼らの行動に共感できない。当時の時代背景や価値観を考慮して彼らの行動を理解しようとは努めるのだが、それでも駄目なのである。こんな行動とっていればこうなるのは仕方ないだろうし自業自得だろうと、少し距離をとりながら半ば呆れつつ彼らを眺めてしまう。
それはまるで無能な経営者が拙い経営をして会社が倒産するとか、ろくに練習しない野球チームが試合に負けるくらい当たり前の光景を見ているようである。結論に何も意外性がない。
NHKのBSで今回の放送を見たのだが、映像はデジタルリマスターなんだそうで古い割には見やすくなってました。でも音声が良くなくて、侍たちが低い声で早口で喋っているところは時々聞き取れない部分もありました。あまり快適に見れたものではなかったです。