劇場公開日 1981年4月11日

「役者・伊丹十三の本領」仕掛人梅安 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0役者・伊丹十三の本領

2025年2月2日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 萬屋錦之介主演の東映版仕掛人。

 劇場公開時、評価も興行成績も芳しくなかったように聞くが、原因の一つは錦之介が梅安を演じたことへの違和感にあったと思う。
 当時は大ヒットしたTVシリーズ『必殺仕掛人』の記憶未だ覚めやらぬ時期。緒形拳演じる若くて精力的な梅安像と、当時五十歳手前の錦之介のイメージが重ならないのも無理からぬこと。
 とはいえ、原作小説で梅安が若いなどとは一言も言及されていない。
『必殺仕掛人』には登場しなかった相棒、彦次郎の設定が四十過ぎなので錦之介が梅安をやっても不自然ではない。
 ただ、自分の認識する錦之介の後期代表作は拝一刀を演じたTVシリーズ『子連れ狼』と柳生宗矩を怪演した『柳生一族の陰謀』(1978)。どちらも凄味が特徴だったが、本作の達観した梅安にはその凄味が欠けていたように感じる。

 撮影は本作が劇場作品最後の仕事となった宮島義男。大映の宮川一夫と並び称される存在の筈なのに、本作の、特に前半、カメラワークに精彩が見られない。
 渡辺茂樹のBGMもチープだし、細部の演出にも安易さが散見出来る。

 監督の降旗康男は東宝での『駅 STATION』(1981)の監督が決まっている中、スケジュールをこじ開けるようにしてわずか20日ほどで本作を撮了。いい映画が出来る訳がない。
 映画では斜陽でも、TV時代劇の雄として君臨し続けた東映の傲りが本作では露呈したような気がする。

 彦次郎役は錦之介の実弟、中村嘉葎雄(仲いい兄弟だなあ。この二人だったら『影武者』だって成功してたかも)。

 旗本の放蕩息子、主税之助を演じたのは昨年他界した中尾彬。『本陣殺人事件』(1975)の金田一耕助なんて珍品もあるが、この人には毒々しい悪役が似合う。悪口ではなく、そんな役もこなせる俳優がいないと映画もドラマも成立しないということ。

 元締・音羽屋半右衛門を演じた藤田進も適役。

 子供の頃、伊丹十三はすでにマルチタレントのような存在で、その後映画監督として活躍したため、俳優としての演技を意識して観る機会は本作がおそらく初めて。
 彼の演じる近江屋佐兵衛は明らかに主役の梅安を喰っているように見える。伊丹十三の役者としての本領発揮、錦之介が今回出せなかった彼の凄味が本作最大の見所といえる。

 BS日テレにて鑑賞。

TRINITY:The Righthanded Devil