サンダカン八番娼館 望郷のレビュー・感想・評価
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島原の乱に遡る「からゆきさん」の歴史
女性史研究者山崎朋子氏の著作サンダカン八番娼館(1972)により世間に広く知られるようになったからゆきさん。
証言者おサキさんへのアプローチは現在では厳しい裁断を下されるものかもしれないが、腐った畳にムカデが巣食うあばら家で衣食を共にすることから始める山崎朋子氏の直観力とジャーナリスト根性は間違ってないと思う。だからこそ、出版の許諾を得ることが出来たに違いない。最後に礼金は固辞するが、「手拭い」を置いて行ってほしいとおサキさんに言われる。喋りたくない隠し事(取材目的)があるなら、喋らくてもいいんだよと言うおサキさん。騙され、親族からも忌避されてきた人生の中で彼女がたどり着いた心境と本当に欲しかったものが表出するシーンだ。母親(岩崎加根子)が織った着物に綿入れした布団もしかり。
1974年の熊井啓監督作品。1977年に67歳で亡くなる日本映画に人生を捧げたと言ってもよい田中絹代の人生。
このあと舞台を活動の主体にしてゆく栗原小巻や小説家に転向した高橋洋子の代表作品としても貴重。
女郎出身の女領事と言われたおキクさん役、水の江瀧子の堂々とした貫禄。
私財でサンダカンに日本人共同墓地を建てたおキクさん。日本には帰らない決意。偉い人だと思うけど、うんと悲しい。
おキクもおサキさんも天草出身だった。
島原の乱に始まる貧国日本の裏史。
胸が痛くて仕方ない。
サキ(高橋洋子)に童貞を捧げる長野の貧農出身の青年竹内秀夫役の田中健。映画初出演。このあと、青春の門で主演(共演:大竹しのぶ)
熊井啓監督は長野安曇野出身。
この役どころは山崎朋子氏の原作にはない気がするんですけど😎
多くの唐行きさんに謝りながら、恥ずべき歴史を知るべき
田中絹代さんが圧倒的。
演技してる感じがしない。
髙橋洋子さんも素晴らしい。
目が覚めるような作品でした。
水の江瀧子さんの存在感も良かった。
これまで無知で申し訳ありませんでした。
現地よりも
近代女性史を研究する三谷圭子は、からゆきさんの取材で天草を訪れる。しかし、誰もそのことを話そうとしない。そんな時に老婆サキと出会い、彼女が元からゆきさんだと確信した圭子は、サキのあばら家で共同生活をする。そうしてサキは重い口を開く。彼女は12歳の時、300円でボルネオ島サンダカンに連れてこられ。
江戸末期から昭和初期に天草地方を中心に、東南アジア方面に連れていかれた貧しい家庭の娘たち。彼女らを、からゆきさんというのを初めて知りました。ジャパゆきさんは、その派生語。現地での苦渋と困難は想像に難くないです。しかし帰国後の家族と周囲の仕打ちに、やるせない思いがしました。
想うほどの故郷はなかりけり
不幸な激流にのまれて
流れ流れて生きてきた
女性の話を聞きにいく
女性学者。
田中絹代演じる彼女は、
語るのも辛い人生を生きてきて
月並みな言い方をすれば、
それでも心が穢れることはなかったというのでしょうか。
私にはむしろなにかしらの望みをもつこと
それ自体を諦めてしまったがゆえの
つつましさ、清らかさなように
思えてしまって、
そこにいたってしまった生涯に涙が出そうでした。
自分を二度も捨てた日本はすでに故郷ではないのです。
彼女にとって故郷とは
母の存在に他ならなかったのでしょう。
もしかすると、まだ母と呼べる故郷が
かつてあっただけ
幸せなほうだったのでしょうか。
似たような境遇の女性の中で。
まるで大昔の出来事みたいだが
この話のころから
まだ100年もたっていない。
日本自体が激動の時期を過ぎてきたのだな。
昭和の伝説の映画
栗原小巻扮する女性史研究家三谷圭子は、からゆきさんの実態を調べようと長崎へ出向き、ひょんな事から田中絹代扮する北川サキに出会った。
昭和の伝説の映画を初めて観たが、まさに女たちの日本の歴史かな。サンダカンとはボルネオ島の港町、そこで繰り広げられた歴史は悲惨な女たちの隠された過去であった。若い頃のサキを高橋洋子、年老いたサキは田中絹代、そして栗原小巻と3大女優の渾身な演技で素晴らしかったね。まさに伝説そのものであったな。
被害者の傷はカネでは癒せない!
過日、「BSプレミアム:日本映画100選」にて鑑賞。
30数年前に池袋の文芸地下で見て以来だけど70年代は、こういう映画がロードショーに乗ってたんだと思うと凄いことです。
きっと、時代が混沌としていて、みんなが真剣だったんだろうな。
一時、原発関連で一部高揚した空気も感じらましたが・・、
さて、観終わっての感想ですが「高橋洋子」が素晴らしい。あと、「水の江滝子(?)」の存在感は、圧倒的でした。
従前より、朝鮮や近隣諸国の従軍慰安婦問題が問題になってるけど日本という国は、自国の恵まれない民をも同じように誑かしてきたんだ。
「お国のエライ勲章」をもらった故中曽根元首相がこういった娼館を作るよう指示していたという事実が朝日新聞で報道されてましたね。
植民地支配、女性開放とかいう以前に「人権問題」として、どうなんだ、ってことだと思う。
以前、安倍元総理が「自虐的歴史」とかで報道を規制しようとしたり、どっかの先鋭な知事が「自ら望んでいった」みたいな発言してたけどこういった「人の痛みのわからないヤカラ」が政治を牛耳っている限り、周辺諸国との関係はこじれていくばかりだ。
補償とかは、金銭の問題では、決して解決しない。
与えられた「被害者」の傷の深さを「加害者」が慮ってこそ、償いが始まるのだと思うし、それをふまえないといつまでたってもギクシャクした国際交流が続いてしまうことを肝に銘じなければならない。
田中絹代でなけなればこの映画は成立しない、それほどのもの凄い演技でした
強烈な映画でした、そして号泣しました
田中絹代でなけなればこの映画は成立しない、それほどのもの凄い演技でした
他の誰が演じても無理です、彼女でしかなし得ない恐るべき演技です
枯れ木のように細く軽い小さな体と浅黒く日焼けした肌と顔
そこにキラキラ光る瞳と笑ったときの得も言えない包容力
正に老境のおサキさんそのものです
彼女こそ稀代の名女優です
そしてそれを清楚で上品な栗原小巻との対比をなすことで一層際立ているのです
高橋洋子も現代パートに負けない熱演でした
また熊井啓監督の演出もものすごいものがあります
特におサキが初めて客を取らされたときに、彼女の顔に掛かる客の首にかけられたチェーンの先の細長い鍵のシーンには感嘆しました
強制された処女喪失の破瓜の痛みと悲しみに歪む顔、逃げ場のない鍵をされた部屋、男が首にかけたチェーンが顔に掛かる体位、男性器を暗喩する鍵とその前後に揺れる挙動
それらを一挙に映像で表現してしまうのです
また天草の兄の家の風呂で顔を湯に浸け、声を出さずに泣くシーンにも心が張り裂かれました
音楽はあのゴジラの伊福部昭で、独特の他にない土臭い強烈な音楽で突き抜けた悲しみを増幅させる力があります
その他にもおサキさんという一人の女性に日本の近代化の軋みと歪みが見える構成と演出は見事という他にありません
終盤の主人公とおサキさんの別れでの田中絹代の号泣シーンには強烈な破壊力があり涙腺が崩壊しました
エピローグの墓が日本に背を向けている
拒絶のように見えて、実はそれこそが血のでるような望郷の叫びだったのです
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