「食い合わせ?消化不良?! 贅沢過ぎ、盛り込み過ぎの食あたり気味超大作」座頭市と用心棒 TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
食い合わせ?消化不良?! 贅沢過ぎ、盛り込み過ぎの食あたり気味超大作
西部劇に翻案された『荒野の用心棒』(1964)が国際的に大ヒットしたほか、世界中の映像作家や作品に影響を与えた日本映画のマスターピース『用心棒』(1961)。主演は言わずもがなの世界のミフネこと三船敏郎。
かたやカツシンこと勝新太郎主演の代表作『座頭市』シリーズ。こちらの世界的認知度も『用心棒』に負けず劣らずで、特に発展途上の抑圧的政治体制下の民衆からは熱烈に支持された。
本作はカツシンの念願かない、東宝からミフネを借り受けるかたちでピカレスク・ヒーロー同士の対決が実現した勝プロ製作の時代劇超大作。『座頭市』シリーズ中、最高の興行成績をうち立てた作品。
久しぶりに頭を剃り上げたことも含め、原点回帰なのか、シリーズが進むにつれ健常者のように動き回れた市は本作では階段の上り下りにも四苦八苦。しかし居合(抜刀術)の腕は相変わらずで、序盤に愛刀を折るものの、にせ座頭(実は隠密)から引き継いだ特製の仕込み杖も難なく使いこなす。
その一方で、女子供に優しく義理人情に流され易い前作までの設定は薄まり、デカダンで個人主義の人物像に描かれ、無声映画の悪役みたいなメイクまで施されている。
三船演じる用心棒・佐々(多分、酒の女房詞「ささ」と掛けている)も黒澤作品のような堂々たる風格はなく、序盤は金に意地汚い吞んだくれの素浪人として登場。
「どうせ凄腕なんでしょ」という期待をよそに、なかなか本領を発揮しない。
主役二人の夢の競演だけで充分豪華なこの作品、彼ら以外に当時の名優が贅沢なまでに散りばめられていることにも注目。
村落のかつての長老・兵六役は元祖チャンバラ俳優のひとり嵐勘寿郎。年齢に関係なくアラカンと呼ばれていた。
新劇出身俳優きっての演技派・滝沢修が演じる烏帽子屋弥助の息子でやくざの親分政五郎役は彼の愛弟子、米倉斉加年。
後年、とぼけた人情味ある役柄が多くなる彼が、本作では眉を落としてこわもての悪役を熱演している。
本作のヒロイン、というより紅一点の梅乃役は大映のスター女優若尾文子。
怪しげな殺し屋九頭竜(正体は隠密・跡部九内)を演じたのは怪しい役が圧倒的に多かった岸田森。岡本喜八監督作品の常連で、TVシリーズ『怪奇大作戦』(1968~)など代表作も多いが、1982年に43歳の若さで他界。もっと活躍して欲しかった個性派俳優。
岸田の盟友で吞み友達の草野大悟はヒゲがトレードマークで時代劇、現代ドラマ双方で活躍した名バイプレーヤー。本作でも番太の藤三をコミカルに好演しているが、この人も51歳で早死にした惜しまれる才能。
二人とも酒飲み過ぎだよ…。
八州廻り同心脇屋陣三郎役の神山繁はTVの『ザ・ガードマン』(1965~)の出演で人気を博したが、今回は悪役。
というか、出てくる奴らみんなワルかワルワルばかり。
父の弥助を手に掛ける彼の愛息子三右衛門を演じた細川俊之はTV・映画・舞台に加え、低音の美声を活かして歌手や声優としても活躍。彼にも、もうちょっと長生きして欲しかった(70歳没)。
作品中、例外的に善人なのが約二名。
市を「先生」と慕い、体を張って梅乃を守ろうとする若いチンピラ余吾役は寺田農。彼も『肉弾』(1968)ほか岡本作品の常連で、硬軟演じ分けた実力派俳優。
鍛冶屋の留吉を演じたのは個性派の脇役、常田冨士男。のちにTVアニメ『まんが日本昔ばなし』(1975~)で市原悦子とともに永らく声を担当した人。
村を牛耳る二つの勢力をよそ者がまとめて片づけるというプロットは『用心棒』とほぼ同じ。
クライマックスでの座頭市と用心棒の対決が引き分けに終わるのには拍子抜けするが、予想できたというか、やむを得ない大人の事情。
大映と東宝、どちらの顔も立てないといけないしね。
脚本(脚色)も兼ねた東宝出身の岡本喜八監督は、『座頭市』の原作やシリーズ一作目に配慮しながら(佐々が酒乱気味なのは、平手造酒を意識しているから)、黒澤大先輩から預かった『用心棒』にも目配りしつつ、当時ブームだったマカロニ・ウエスタンの影響も反映した、少々盛り込み過ぎの映画に仕上げているが、幅広い作風で知られる監督のサービス精神が今回は裏目に出たのか、作品の輪郭も焦点もぼやけた印象。ほぼ皆殺しなのに、『用心棒』『座頭市』シリーズ、両者に感じた剣戟の凄味が見当たらない。
東宝からの三船貸し出しの条件が岡本監督との抱き合わせ、なんてことはなかったとは思うが、ともに『座頭市』シリーズにも深く関わり、TVシリーズ『必殺仕掛人』(1972~)でもシャープで乾いた演出を見せた三隅研二や、所属会社を越えて黒澤明監督と交友があった森一生ら、大映組の監督がメガホンを執っていたらと想像すると、ちょっと残念。
BS日テレにて視聴。