「伊藤×三隅×成田で、ただの市じゃない!」座頭市地獄旅 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
伊藤×三隅×成田で、ただの市じゃない!
シリーズ12作目。1965年の作品。
船に乗ろうとして身体障害者である事をこけにされ、危うく落ちそうになった市。そこを助けてくれた一人の浪人、十文字。将棋好きの二人、船旅で意気投合。市は十文字から“ただの市”とあだ名を付けられるように。
江ノ島で降りた市と十文字。市は按摩の相手が船のイカサマ博打の一味で再び揉め、その時偶々通り掛かった幼女を怪我させてしまう。責任を感じ、十文字と薬を買う旅へ。
薬を手に入れ、幼女の療養の為、箱根へ。温泉宿には父親の仇討ち旅を続ける若侍とその妹、家来もいたが、ある日家来が何者かに殺され…。
これまたシリーズ出色の一本!
まずは何と言っても、成田三樹夫!
設定上は今回のライバル役。ニヒルでクール。
前半は市と交流を深める。渋い、ハードボイルド侍。
これほどの魅力を備えたライバル役は、第1作目で天知茂が演じた平手造酒以来。
市との度々の将棋勝負、王手の際の手で鼻を撫で指を鳴らすのは後々の伏線となる。
若侍と妹の仇、家来を殺した相手はいちいち言わなくても分かる。
それを確信する市。
市が自分を疑っているのを感じる十文字。
襖を挟み、お互い刀に手を取る。
そして、ラスト。
二人が頭の中で将棋勝負をしながら対決の機会を窺う…。
緊迫感も娯楽性もたっぷり。
第1作目や『~血笑旅』など、やはり三隅座頭市は快調。勿論音楽は伊福部昭。
本作は第1作目を彷彿させる描写が多々。
冒頭の船に乗ろうとして落ちそうになったシーンは第1作目で橋を渡ろうとしてへっぴり腰のシーンと似ているし、イカサマサイコロ賭博なんてそのもの(でも中盤で珍しく負ける!)、市の永遠の想い人・お種さん、ライバルとの交流と斬り合う宿命…。
さらに、やくざ一味とのゴタゴタ、ヒロインとの恋慕、子供好き、若者の仇討ち助っ人…シリーズあるあるもあちこちに。
船旅、江ノ島、箱根…舞台や風景もいい。
座頭市映画の魅力を濃縮。
これらをまとめたのが、脚本を担当した伊藤大輔。
飽きさせないストーリー展開も巧い。
時代劇映画の父と言われた手腕、ここにあり!