ゴンドラ(1987)のレビュー・感想・評価
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自分にとってのかけがえのない作品
自分にとっての最高の映画は、内容云々の前に、その映画と出会うシチュエーションも重要な条件になってくると思います。私は旅先の宿でたまたまこの映画を鑑賞し、ハマりました。私自身、人生について色々と思い悩んでいた時期であったので、この映画で主人公ふたりがそれぞれの人生に思い悩み葛藤する姿は、私の心に深く突き刺さりました。映画という虚構世界が、自身の生きている現実世界とリンクするような、そんなリアリティを感じました。
死んでしまったら私たちはどこへ行ってしまうのか?誰しもが子どもの頃に考えていたであろう死についてのあれこれは、大人になるにつれ、現実にのしかかってくる多くの問題に忙殺され、忘れ去ってしまいます。でも、この映画のかがりちゃんを見ていると、私たちがかつて死を思っていた頃の遠い記憶が、生々しい手触りをもって呼び起こされる思いがしました。
初鑑賞以後、幾度も繰り返し見ている作品ですが、そのたびに、自身の心臓の鼓動が再び強く動き出すような勇気が湧いてきます。この作品に出会えたことは、自分の人生にとってかけがえのない思い出です。
除け者同士の青年と少女が当て所なく探す"命の意味" "人は一人では生きていけない"を瀟洒に描く自主映画...
公開当時からその筋では有名な作品だったようですが、数年前の公開30周年でのリバイバル上映やソフト化の際には結構話題になってましたね。旧作にしても最新公開映画にしても上映に際しては著名監督、俳優さんやコメンテーターさんが絶賛コメントを寄せるのが常ですが、本作については斎藤工さんの「何百何千本観なくても この一本だけ観たい そんな作品」というコメントがなんとも印象的でした。
己が生に孤独と違和感を抱える青年と少女の二人が死生観をきっかけに交流を持ち、現実を見つめ直す物語です。
予告や解説等でも引き合いに出される作中のセリフとして、
あかり「死んじゃうと、生きてたことってどこいっちゃうのかな.....」
良「俺の田舎じゃさ・・・・・死んだ者は海に帰るって言われてんだ」
というものが有りますが、作中の総てがそこに収斂しているように思います。
孤独を描いた作品は当然の如く画面も寒々としたものが多いかと思いますが、本作は"水"が頻出しますがそれすらもどこかしら暖かく、そのあたりの人を拒むわけではない孤高さが国内外での評価の高さに繋がっているのかもしれません。
なんだかとってもいい
便所は汲み取り
アート系作品かと思ってしまった序盤から、ハートフルドラマへ。説明なんてまどろっこしいものは要らない。孤独を感じている青年・良からすれば、都会で見つけたたった一人会話の相手。街並みが海に見えるというところが絶妙でもあった。一方の11歳の少女かがりは音のない高層マンションの一室で文鳥のさえずりに癒やされていた。
鳥の死骸を扱ったことから、ちょっと間違えればホラー、エロチックなものになってしまうだろうに、純粋な心を持つ主人公のおかげでファンタジーさえ感じてしまう。下北半島のロケ地もいいし、良の母親(佐々木すみ江)の演技がとてもいい。
好きなシーンは廃校となった学校の音楽室。壊れたオルガンを弾いて目眩を起こすところが不安定さを醸し出していた。
まさしく掘り出し物の作品だった。木内みどりも佐々木すみ江も入浴シーンがあるし、少女かがりも一緒に入ってる。少女ヌードシーンがある映画ってのは何故か埋もれちゃうんですよね(勝手に思ってます)。
煌めきの中に漂う危うさ
その時代の古さがしっかりと出ているのに、スタンダードの映像が非常に美しくて、映画特有の普遍性を強く感じた作品。
明瞭な映像の中に挟み込まれてくる、生の危うさ、危うい性…。決してよい内容でもよい演出でもないけれど、ぎこちなくて不自然な関わり合いが、目を離すことができないような緊張感を生み出しているような印象。
東京の風景、東北・靑森・下北半島の風景、その描写がことごとく見事なものだが、それに反して登場してくる人々の描かれ方は決して美しくも気持ち良いものでもない。人間臭いところが丸出しになっているように見えるのだが、不思議と嫌悪感はなくて、むしろ愛おしく思えてくる。
どろどろとした中で光輝くピュアなもの─その輝きはあまりにまぶしくて、まぶしすぎるが故に、すぐに消えてしまいそうな刹那…。短いスパンで考えれば幸福感を強く感じるけれど、長いスパンで感がると悲劇的な思いになってしまう。
恋しさと せつなさと 心強さと
キネカ大森で「ゴンドラ」を観た。上映終了後、後ろの出口から聞き覚え...
感動しました
この映画が30年前に作られたものとは驚き。
まず、映像が綺麗。特に青森県下北半島の風景を、わたしは実際に見ているだけに、そのまま切り取ってスクリーンに貼り付けたような印象を受けた。35ミリフィルムに焼き付けられた鮮やかな色が、そのまま残って再現されていたのはほとんど奇跡に近い(上映後の伊藤監督の挨拶でもそう語っていた)。デジタル全盛のご時世だけど、アナログの映像は柔らかくて暖かい。心まで包み込む。
ストリーは単純。夫婦仲が悪くなって父親が出て行った後の母子家庭。心を閉ざしている少女は、窓拭きの青年に会って少し心を開く。青年の故郷に一緒に行き、青年の両親に会ったり青森の自然に触れてまたもう少し心を開く。ラストは、少女のちょっとだけの成長と夫婦が和解してまた家族で暮らすことを暗示して終わる。それだけ。
心の癒しと救いというテーマが、美しい映像と役者の朴訥とした演技の一番深いところを静かに流れている。
いつまでも心に残る映画には一生の内そんなに出会えることはないが、わたしにとってこの映画はその1つになる。今回のリバイバル上映においてデジタルリマスターされたので、メディアが販売されたら購入したい。でもやはり35ミリを何度も見たい。
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