「手ぬるいマスコミ批判」コミック雑誌なんかいらない! 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
手ぬるいマスコミ批判
内田裕也やビートたけしの演技は面白いものの脚本といい演出といい問題意識といい稚拙な部分が目立った作品だった。
とは言いつつも序盤のロス疑惑のインタビューあたりまでは本当に良かった。インタビュー対象に論理的にも倫理的にも完全敗北を喫しているにも関わらず「一言だけお願いします」と機械のように繰り返し続けるキナメリには当時のマスコミの狂いぶりが見事な形で刻印されていたと思う。「恐縮です」と口では言いつつも微塵も恐縮していない慇懃無礼ぶりも面白い。
しかしマスメディアの暴走を最前線で担っていたキナメリが最終的にマスメディアの標的にされるという展開はあまりにもありきたりだ。しかも唐突に「俺は報道倫理に目覚めたんだ!」と改心させるのではさすがに具合が悪いと思ったのか、日本航空123便墜落事故や豊田商事事件といった誰もが厳粛とならざるを得ない事件を通じて彼を少しずつ倫理の側にズラしていくというセコい戦法を取る。
「細部を誤魔化しながら大局でドラマチックな物語を提供する」みたいなやり方こそがマスコミの最も非難すべき側面であるはずなのに、それをマスコミ批判映画の本作が率先してやってしまっているという皮肉。ミイラ捕りがミイラになるとはまさにこのことだ。
ここは下手に冒険せず、キナメリを最後まで狂人として描き切ったほうがよかったんじゃないか。それこそ御巣鷹山山中に転がる焼け焦げた無数の死体に向かって「一言お願いします」とか、悪徳商社の会長を殺しに来たビートたけしから刃物を奪って「動機は何ですか?」とか。アパート前で待ち構えるマスコミの前に血塗れのキナメリが出てきて全員が押し黙る、みたいなオチのほうがよっぽど倫理的だと思う。
劇中で幾度か挿入される無人の球場でのやりとりにもいまいち視覚的インパクトがない。しつこいスローモーション演出も退屈だった。特にラストカットの緩慢ぶりには辟易した。等速で流して最後にマイクを投擲する瞬間だけスローにするのではダメだったんだろうか。